“健康な”男子におくる(女子も読んでいいんだよ!)医療ファンタジー

“健康第一”、“体が資本”、“無病息災”

よく使われるこれらの言葉。細かい意味は異なるそうだが、どれも元気がなにより、という先人たちの有り難い教えに即したものであるという点は変わらないという。まァ、たしかに人間、頑丈な肉体を持っていれば、どうにかなんとかなるもので、日常生活でぶち当たるだいたいの困難も、そしてだいたいの難関も、元気があれば突破できるのかもしれない。うむ、昔の人たちは良いことを言うものだ。

健康と美容(←これ笑うとこ)は、他のすべてを差し置くほどの最優先事項だと考える私がハマっている健康法が“サウナ”である。週に二回ほど通っているのだが、体力が回復するだけでなく気分がスッキリするものだ。九十度前後のサウナに10〜12分ほど座り(もちろん温度が高い上段の席だ)、たっぷり汗をかいたあと、冷えた水風呂にドボン!する。と、高熱で拡張した血管が一気に収縮し、頭がボーッとしてくるのである。なんとなくトランス状態になってくるわけだが、この落差が気持ちイイ! 特に水風呂の中で眠気を覚えるくらいの恍惚感を得られると最高だ。“なんかこいつヤバくね”などと思われそうだが、いわゆる“温冷交代浴”というのは自律神経の安定にもつながるとされ、医学上の根拠もあるという。やりすぎなければ良い、というわけだ。

ただし、これは毎年の健康診断で“医者いらず”、“十代並みの若々しい肉体”と太鼓判をおされる私のような頑丈な人間にのみおすすめできる回復法である。高血圧、心臓の弱い方は注意されたし。また水風呂に入るときは心臓から遠い箇所(脚と腕)を先に濡らしてからにしましょう。いきなりドボン!すると体にかかる負担が大きくなるからね。





さて本作『Hearing & Slashing』は、そんな健康について深く考えさせられる小説となっている。病弱な美少女ヒロイン、ルビーは展開に合わせ都合よく発作を起こす(笑)。それでも、“とある目的”を果たすため、なんとか剣をとって戦おうとする彼女の健気な姿に読む者は心を打たれるわけだが、正直なところ私は“俺、健康で良かったなァ”という感想を持ってしまった。肝心なとこで血を吐きたくないもんね。

『発作で動けない病弱な少女が数話ごとに衣服を剥がされ触られまくる!!』

という鬼畜系エロゲーみたいなキャッチコピーを冠しているが、考えてみればエロいものを読んで喜ぶことができるのは健康な肉体を所有している証拠ともいえる。そういう意味では我々読者に健康のありがたみを教えてくれる作品なのだと思う。つまり本作は“エロで興奮したければ健康体を維持しなさい”というメッセージであると、私は解釈している。このあたり、なかなかに深いぜ!

ちなみに……“発作で動けない病弱な少女(ルビー)が数話ごとに衣服を剥がされ触られまくる!!”小説となっているのは事実である。これから読もうとしている健全な殿方諸君、キャッチコピー詐欺ではないので、ご安心を(笑)

医学があまり発達していない世界の話である。だから、そこに住む人々は病気になると一大事だ。衛生面も所々イマイチで、もし、かの名医ノストラダムスがいたならば“街中に酒をぶちまけろ!”と指示するに違いない。世界一清潔な医療大国に生まれて幸せだと思わずにはいられない。エロいコンテンツも充実しているし、やっぱり日本って良い国なんですね!

余命いくばくもないルビー。そのくせ短気で無茶で無謀で無鉄砲、という困ったチャンだが、そこそこ腕が立つものだからタチが悪い。おまえ寝とけよ、と言いたくなる不健康状態で街を徘徊し、ときに悪党をとっちめるお転婆娘でもある。暴れん坊の彼女を救おうとするヒーラーのシストは、わりと常識人なので良いコンビと言えるだろうか。男と女の珍道中を書かせれば右に出る者がいない作者、前田薫氏が描くふたりの関係はボケとツッコミの漫才風に進展してゆく。これが痛快で面白い。

ところが終盤、わけあって急激にシリアスになる。それまでの明るいタッチとの落差は、まさに高温のサウナと冷たい水風呂の関係にも似る。血管が拡張するほどに笑わせてくれたあとにやって来るハード展開は読者の心をキュウッと締め付けてくれることうけあい。温冷交代浴のごとく心臓がドキドキ鳴っちゃうラストが読者を待つ。実はこれ、私のような“サウナー”に向いた小説だったのか(笑)

ラスト付近は先が気になって項をめくる指が止まらなくなるだろう。PCやスマホのやりすぎは健康を損なうおそれがあるので用法、容量を守って正しくお読みください(笑)

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