第23話 シストとルビーの関係

 シストはルビーを背にしてリーダーらしき男と対峙した。先ほどリーダーらしき男が放った銃弾はシストのグローブによって弾かれている。グローブに仕込んであった鉄鋼は銃弾も跳ね返したようだった。


 それよりも、シストにとって重要なことがある。目の前にいるリーダーらしき男に、見覚えがあったのだ。いや、見覚えがあるというものではない。よく見知った、つい先ほども出会った男だった。



「カイ……」


「シスト。なぜお前がその小娘をかばう」



 リーダーらしき男はシストの友人、カイだった。両者ともに驚き、困惑している。なぜこのような状況になったのか、どちらも正確に把握はしていないだろう。



「なぜ僕がルビーさんをかばうか、ですか。それよりも、僕はなぜあなたがルビーさんを襲っているかが気になりますよ。あなたは、そのようなことをする人ではないはずです」


「いくつかの理由がある。その一つは、お前も知っているはずだ。いや、お前のためにやっていると言ってもいい」


「……」



 シストはカイの言っていることに心当たりがあるのか、即座に返答ができなかった。その様子を見て、ルビーが不安そうに尋ねる。



「シスト、あんた、こいつと知り合いなの?」


「ええ。魔法学校時代の友人です」



 なぜシストの友人が自分を殺そうとするのか。ルビーにはその理由がわからなかった。その疑問に答えるかのように、カイが叫ぶ。



「シスト、その小娘から離れろ! そいつは、お前の――」


「わかっています!」



 カイの言葉を遮るように、シストは叫んだ。いつもの穏やかな声のシストではない。その変化に、ルビーは驚く。



「ルビーさんと僕の関係は、僕が一番理解しています」


「ならば、なぜ……」



 カイは、「わからない」とでも言いたいような顔つきになった。それ以上に、ルビーも二人の会話がわからなかった。何を話しているのか。自分に関することなのに、どこか違う誰かの話をしているように感じられた。



(シストと私の関係? ヒーラーと患者? 仇討ちとその助太刀? それ以上に、何か関係があるとでもいうの?)



 ルビーとカイの混乱をよそに、シストは冷静だった。拳を握り、ゆっくりとカイに近づいていく。その顔は、覚悟を決めた顔だった。



「御託はいりません。素直に立ち去るか、僕と戦うか。どちらかにしていただきましょう」


「っ!」



 そこまでしてシストはルビーを守りたいのか。カイはシストの心情が読めなかった。覚悟が決まらないまま、震える手で銃をシストに向ける。



「俺は、目的のために突き進むだけだ!」


「ならば!」



 シストは地を蹴った。その瞬間、カノンの夜空に再び轟音が鳴り響く。銃弾はシストではなく、その後ろにいるルビーに向かって発射された。しかし……。



「甘いです!」



 シストのグローブがその銃弾を弾いた。カイの狙いが初めからルビーであることに気づいていたのだ。そのため、グローブを出す動作に迷いがなかった。完全にシストの読み勝ちである。



「狙うなら、僕を狙うことです」



 シストは一瞬でカイの懐に潜り込んだ。カイはシストの武術を知っている。咄嗟に鳩尾を両手で守った。しかし、シストの狙いはそこではなかった。


 肝臓。わき腹にあるその臓器を、シストは突き上げるように拳で狙い撃った。



「がはっ」



 鈍い音が響き、カイは激痛に悶絶する。手に持っていた銃は滑り落ち、まるで土下座するかのような恰好で地面に倒れ伏した。



「旧友の情けです。今回はこのまま見逃しますが、次は、ありませんよ」



 カイは言葉にならないうめき声を出す。あまりの出来事に、周りで見ていた怪しいフードの男たちも動くことができなかった。リーダーであるカイの指示がなければ、何一つできない烏合の衆だった。


 シストは振り返ると、ゆっくりとした足取りでルビーに近づいていった。そして、倒れているルビーを両手で抱え上げる。いわゆる、お姫様抱っこというやつだった。



「ちょ、ちょっと、シスト。何やっているのよ!?」



 ルビーはあまりの恥ずかしさに体をシストから離そうとした。しかし、怪我でうまく体が動かないのか、その動きは手足をジタバタさせるだけである。



「あ、暴れないでください。ルビーさんは重傷なんですよ? まともに歩けないんですから、こうして運ぶしかないじゃないですか」


「せ、背負うとかあるじゃない」


「わき腹を怪我しているのにですか? 傷口に背中が当たってきっと痛いですよ」


「う、うぅ……」



 シストの言っていることは正論なので、ルビーも反論ができない。結局、ルビーは怪しいフードの男たちが見ている中で、シストにお姫様抱っこされることになった。


 じっと見ているカイや怪しいフードの男たちの視線が痛い。恥ずかしさのあまり、わき腹や右肩の痛みなど忘れてしまいそうだった。


 そんなルビーを抱えるシストに、カイは言葉を振り絞って投げかける。



「シスト、俺はお前のことを……」


「……」



 カイはまだ何か言いたそうだったが、シストは一瞥しただけで何も言わない。周りで待機している怪しいフードの男たちはシストとカイの関係を計りかねているようで、何もしてこなかった。


 シストはそんな怪しいフードの男たちの間を通り抜け、ルビーを抱えて宿に帰っていった。

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