好感度と君

りゅーと

第1話

「明君よ、他人が自分に抱いてる好感度って知りたいと思わないか?」


昼下がりの放課後、俺こと朝宮 明(あやみや あきら)と、姫野 佳奈(ひめの かな)はいつもの様に教室で他愛もない話をしていた。

先程突拍子もないことを質問してきた特徴的な話し方をするこいつが姫野 佳奈である。

高校生ながら様々な発明品を手がけており、発明品の特許をいくつも取得しているのだとか。


「めっちゃ思ってる!いや、毎日思ってる!」


分かるだろうか。

女子が俺に抱いている好感度さえ分かれば、人生をイージーモードで送れるということを。

授業中に何度も妄想したのかを!


「てなわけで、はいこれ」


「これは?」


佳奈から手渡されたのは何の変哲もない普通の黒縁眼鏡。

違和感といえば、少し重みを感じる程度だ。


「他人の自分に対する好感度がわかる眼鏡だが?」


「は?マジで?」


さらっととんでもないことを口走った佳奈。

いやまさか......な?


「大マジだ。ちなみに最高値は100。最低値は0だ。まぁ100なんて滅多に出ないだろうが、80を超えれば付き合いたいと思ってるレベルで好き、くらいの数値だな」


大マジだった。


「佳奈って......高校生だよな?」


「そうだが?」


「よくこんなもん作れるな......」


「まぁ私は俗に言う『天才』と言うやつだからな。大いに感謝してくれていいぞ?」


佳奈が、最近かけ始めた眼鏡をクイッと押し上げる。

その際に窓から風が入り込んできて、佳奈の肩まで伸びた綺麗な黒色の髪をなびかせる。

元々顔が整っているということもある佳奈がドヤ顔で仁王立ちする姿に少しドキッとしてしまったのは内緒だ。


「よっしゃっ!!!んじゃ今からこの学校に居る女子やら先生やらの好感度を洗いざらい全部見てくるぜ!んで80超えてるやつがいたら迷わずアタックする!眼鏡ありがとな!」


「いや、構わんよ、せいぜい自分のことを好きな女子を見つけて告ってこい。きっと成功するだろうよ」


佳奈がまるで母が息子にむけるかのような何とも優しい眼差しを向けてくる。

しかし、どこか暗い表情にも見えたのはきっと俺の気のせいだろう。


「さんきゅー!!!」


こうして俺は眼鏡を手にし、戦場へと向かうのだった。




「ギャハハハ!!!それやばいっしょ!?『13』」


「だよね〜!『15』」


「うわぁ、クラスのギャルかよ......ん?なんだこれ?『13』と『15』?」


廊下を歩いていると、前方から2人の女子が歩いてくる。

派手な見た目に周りを気にしない騒音レベルの声。

学校に何人かいる、クラスのカースト上位のギャルだ。

そのギャルの頭の上に、何やら数字が見える。

おそらくこれが好感度なのだろう。


「あら、明君こんな所で何してるの?『0』」


ギャルが怖い系男子である俺はササッと物陰に隠れその場を立ち去るが、後ろから声をかけられて立ち止まる。

振り向くとクラスの担任である水越 百合(みずこし ゆり)と、来栖 朱夏(くるす しゅか)が校内の見回りをしているようだつた。


「あっ、先生、こんにち......はっ!!!???『0』!!!???」


「?『0』」


いや、これは流石に何かの間違いだろう。

自分の生徒を事をここまで嫌いになれるわけがない。

きっとこの眼鏡は故障品なのだ。

そうに違いない。


「あの、先生、つかぬ事をお聞きしますがもしかしなくても俺の事嫌いですか?」


「嫌いに決まっ......てるわ『0』」


嫌いだった。


「1回言い直そうとしてそのまま勢いで言っちゃう先生の事、俺割と嫌いじゃないです!!!」


「?何言ってるの?まぁとにかく行きましょ、来栖先生❤『0』」


「はいはい、じゃあまたね、明君『83』」




先生たちとの会話を終えて、廊下を先程よりもしょんぼりとしながら歩く。


「水越先生が俺の事嫌いな理由ちょっと分かった。にしても来栖先生は83かぁ、嬉しいなぁ......男じゃなければ!」


そう、来栖 朱夏は男である。

名前に劣らずの美しい見た目であるが、その実、ホモであることを俺は知っていた。

綺麗な薔薇には棘があるとはよく言ったものだ。


「これ男の好感度も見れるのか......友情に亀裂が入るかもしれないしできるだけ見ないでおこう」


もし仲がいいと思っていた友達の好感度が低かったらしばらく立ち直れない。


「あれ?明先輩ですか?『86』」


「?沙耶ちゃん......86?」


今度は俺が所属している図書部の後輩が声をかけてくる。

歳は俺の1つ下で、目まで伸びた長い髪が特徴の高木 沙耶(たかぎ さや)。

いかにも文学少女という感じの佇まいで、手には俺がこの前オススメした本を持っている。

何かと俺によく絡んでくるとは思っていたが、なるほど、そういうことか。


「どっ、どこの話してるんですか!?『85』」


確かに今の感じだと誤解を招くかもしれないが......86くらいなんだな、何がとは言わないけど。

更に、今の会話で好感度が1下がったらしい。

人の好感度を上げるのは大変なことだが、下げるのは簡単だという事だ。


「いっ、いやなんでもないよ!それより沙耶ちゃん!今度俺とどっか遊びに行こうぜ!」


「えっ!?それってまさかデートですか!?『89』」


「もちろ......」


「ちょっと待ったー!!!」


薄れゆく意識の中、佳奈の頭の上に表記された数字を見てしまった。

......なんだ、そういうことか。

表情が曇って見えたのもそのせいか......

ここで俺の意識は完全に途絶えた。




「......ん?あれ?なんで俺ベッドにいるんだ?って、佳奈じゃねぇか、俺は一体なんでこんな所にいるんだ?しかもなんだこの眼鏡?」


今日の記憶が曖昧だが、それ以前のことは覚えているのでどうやら軽く記憶が飛んでるようだ。

......なんかちょっとカッコイイな。


「明君が階段から落ちて、気を失っていたから私が運んできたのさ『100』」


理由はカッコ悪かった。


「なるほど、記憶が曖昧なのはそのせいか......」


「うむ、どうやらそのようだね『100』」


「ところでさ」


「なんだい?『100』」


首を傾げる佳奈。

目の錯覚......という訳でもなさそうだし恐らく佳奈がなにかしたのだろう。


「佳奈の頭の上に100っていう数字が見えるんだがなんだこれ?」


「さぁてね?私が君に抱いている好感度じゃないのかい?『100』」


小悪魔の様な笑みを浮かべる佳奈。

まぁこいつのせいで何度か酷い目を見ているから悪魔には違いないのだろうが。


「ははっ!なんじゃそりゃ、そんなもんが見えるわけないだろ」


「......ちなみにその眼鏡、付けて10分たったら爆発する爆破装置だよ『100』」


「あっぶね!なんてもん俺に付けてんだ!」


眼鏡を急いで外し、佳奈に手渡す。

こいつ俺のこと嫌いなのか?


「今のは明君が悪い......」


佳奈の言葉を遮るように完全下校時間を告げるチャイムが鳴り響く。


「なんか言ったか?」


「何も無いよ、さっ、帰ろうではないか」


「おうよ、あれ?数字見えなくなったな、なんだったんださっきの?」


「さぁね」


佳奈が先程と同じような笑みを浮かべる。


「ほら、絶対何か知ってるじゃん!」


2人で沈む夕日を見ながら帰路に着く。

こうしてると俺達カップルみた......いやいやいや、そんなことは無い。

俺は別に佳奈のことを特別に思っていたりなど......いや、自分の気持ちってのはやっぱり自分がよく分かってるよな。

俺は佳奈のことが......




その後、本当に階段から落ち、記憶を取り戻した俺が......


「佳奈......好きだ!」


「えっ......はっ!?えぇぇぇ!!!???」


佳奈に告白するのはまた別の話......

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