第9話 メリークリスマス

――機体格納庫


 フェルウェインとタイガが【ヴァジュラ】へと戻った。そこには既に他の3人の姿があった。


「お二人さん、お疲れ様」


 デューダーが声をかける。


「お出迎えありがとう」

「みなさんお疲れ様です」


 2人は機体から降りると3人と合流した。


「タイガ、聞いたぞ。フェルウェインさんを助けたらしいじゃないか」

「え、助けただなんて……」

「助けに向かった俺の仕事を奪うとは、生意気な新人だ」

「す、すみません、アックスさん……」

「はっはっは。冗談だ、冗談」


 アックスはタイガの肩を軽く叩いた。


「上に行きましょうか」

「あぁ、イグアスのところに報告に行かないとな」


 5人はエレベーターへと向かった。


 …


――司令室


 エレベーターの扉が開く。


「【遊撃隊】、5人、帰還いたしました」


 後ろに手を組み、背筋を伸ばす


「みんな無事で良かった。5人とも良くやってくれたな」


 イグアスがねぎらいの言葉をかける。


「アルカノイド粒子、およびニューカクスタの減少を確認。【ブラッククリスマス】現象は解消されたと判断して良いかと思われます」


 【解析隊】のミューレイがイグアスに告げる。窓の外には薄っすらと星の輝きが見え始めていた。


「報告ありがとう。よし……」


 イグアスは喉の調子を整えた。


「現時刻を持って警戒体制をく。みんな、突然の事態にも関わらず、しっかりと対応してくれて感謝する。各自、体を休ませてくれ」


 全員が安堵の表情を見せながら拍手をした。

 ある人は大きく息を吐きながら。

 ある人は天井を見上げながら。

 各々が【ブラッククリスマス】の終わりを祝った。


「おい、キース。今何時だ?」

「今は……21時30分だな」

「よし! まだクリスマスだな!」


 デューダーの叫んだ瞬間、司令室に通信が入る


「おい、みんな! 残り少ないクリスマスを楽しもうじゃねぇか! 大部屋に集合だ!」


 それだけ言うと、通信は切れた。


「ゾリウォスさん……確実に酒が入ってるな……」

「流石ゾリウォスさんだ! わかってる! タイガ! 行くぞ!」

「えっ……僕、お酒はちょっと……」


 タイガの言葉を無視して、デューダーはタイガを大部屋へと連れて行った。


「ったく、アイツは……」

「俺たちも行くか。フェルウェインさんはどうします?」

「今日は俺も飲ませてもらおうかな」

「おっ、珍しい。行きましょう、行きましょう」


 5人はさっさと移動していった。


「ふっ、騒がしいヤツらだ」

「イグアスさんはいかがです?」


 リャスカが誘う。


「私は遠慮しておこう。口うるさい上司がいると、きょうめるからな。部屋で静かに飲ませてもらうよ」

「そうですか……。寂しくなったら食堂に来てもいいですからね!」

「ははっ。お誘いありがとう」


 司令室にはイグアスだけが残っていた。


 …


――食堂【ヴァジュラ亭】


 不完全な装飾のままの食堂では、酔っ払ったゾリウォスとデューダーが騒いでいた。不幸にも、2人に目をつけられたタイガが部屋の隅でフラフラと揺れている。


「まぁ、たまにはこんなのもいいか」

「だな」

「イグアスさんも来ればよかったんですけどね」

「アイツは来ないだろう。変に気を使うやつだからな」

「そうなんですね。イグアスさんとも酒を飲んでみたいものです」

「慣れてきたら、それも叶うだろう」


 3人は静かにワインを飲んでいた。


「ほとんど全員揃ったな!」

「ですね!」

「それじゃ、改めて乾杯だ!」

「みんなグラスを持てー!」


 デューダーとゾリウォスが呼びかけると、全員がグラスを高く上げた。


「みんな昨日、今日と良くやった!」

「みんな偉い!」

「今日は飲むぞー!」

「おぉー!」

「それじゃ……せーのっ!」


「「メリークリスマス!!」」


 全員で叫ぶと、グラスをぶつける音が鳴り響いた。


 …


 地上では、こんなことが起こっていることは知られていない。


 我々の知らないところで頑張ってる人のおかげで、今日も平和なクリスマスが過ごせているのだ。彼らの作ってくれたこの日を、大事に、大事にしよう。


 メリークリスマス。

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ブラッククリスマス 天神シズク @shizuku_amagami

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