第5話 鳥の羽ばたき

――司令室


「頼むぞ、【遊撃隊】……」


 暗闇に消えていく【遊撃隊】の姿を見ながら、イグアスは祈っていた。


 …


――宇宙空間


「キース、デューダー。調子はどうだ?」

「問題ないです」

「間もなく予定していた地点へと着きます」


 フェルウェインからの通信に2人が答える。


「了解。アックスはどうだ?」

「こちらも問題なさそうです」

「了解。俺とタイガも問題はなく予測地点に着いた」


 全員、飛行に問題は無く、予定していた地点に到着した。


「【ヴァジュラ】へ。こちら【遊撃隊】。全員、予定されていた地点へと着いた。間もなく、隕石の排除を行う」

〔了解です〕


 フェルウェインが【ヴァジュラ】との通信を終えると、静けさが戻った。【ヴァジュラ】の姿はもちろん、互いの機体すら目視することは難しかった。

 暗闇の空間に一人だけになったような感覚になる頼りになるのはレーダーと自分の腕のみだ。

 この暗闇の中、孤独を感じないでいれるのは機体同士で通信ができるおかげだろう。


「タイガ、俺やデューダー、アックスさんまでもが【ブラッククリスマス】が初めてなんだ。あんまり気負うなよ」

「あぁ、そうだ。それにお前の近くにはフェルウェインさんっていう最高の乗り手がいるんだ」

「気楽に行こうぜ」


 3人が新人であるタイガを励ます。


「どんなに優れたパイロットでも、ミスするときはする。周りをあまり信頼しすぎないことも大事だ」


 そんな中、フェルウェインは冷静に言い放った。


「フェルウェインさんが言うと重みが違うなぁ……」

「みなさん、ありがとうございます!足を引っ張るようなことはしないようにします!」


 言葉を掛け合いながら宇宙空間を漂う。

 そして時は来た。


「予定時刻だ。全員、異物を排除せよ!」

「了解!」


 フェルウェインの掛け声に、全員が応えた。


 【遊撃隊】は機体に備え付けてあるレーダーを頼りに異物の排除を行う。各地点には2〜5個の隕石が降ってくる予定になっている。数は少ないが、相手は隕石である。油断はできない。


 隕石の速度は秒速約15〜30km程度と言われている。宇宙にいるとそこまで速く感じないが、実際は物凄い速さで移動しているのだ。

 正面から撃ち落とすならミスはできない。機体に少しでも当たれば、ひとたまりもないだろう。かと言って、離れて撃ち落とそうにもこの暗闇が簡単にはやらせてくれない。見失った場合、再び撃墜のチャンスを作ることは容易ではないだろう。

 彼らは、少ないチャンスを確実に活かさなければならないのだ。


――C-F-Fブロック


 キースは操縦桿そうじゅうかんを握りながら、レーダーを確認する。推力偏向すいりょくへんこうノズルが閃光を放つと、機体は一気に隕石へと近づいた。


「こちら【ホーク】、隕石を2個確認。予定通り排除を行う」


 操縦桿についている機銃発射用のトリガーボタンを押し込む。機銃の発射による激しい振動が足から腹、腕、頭の先へと伝わった。無数の弾丸は、静かに闇の中へと消えた。続けてトリガーを押し込む。レーダーを確認すると、隕石の反応が消失していた。


「こちら【ホーク】、隕石を2個の排除が完了した」

「キース、グッジョブだ!こちら【ロビン】、こっちも隕石2個の排除が完了している」

〔了解です。イグアス司令、【ホーク】、および【ロビン】が隕石の排除に成功したようです〕

〔ありがとう。キース、デューダー、お疲れ様。相変わらず安定した仕事っぷりだな。帰還してくれ〕


 イグアスが2人をねぎらうと帰還命令を出した。


「お褒めの言葉、ありがとうございます。【ホーク】【ロビン】の両機体、帰還いたします」


 2人は【ヴァジュラ】へと向かった。


 …


――L-K-Lブロック


 隕石の到達まで時間があったアックスは、司令本部の通信を聞いていた。


「2人は仕事が早いな。こっちは1人で頑張らないと……」


 アックスは一人呟き、操縦席の上に広がる暗闇を見つめていた。

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