第22話 触手だからって驚かないわけじゃないと思うなよ



 温泉を満喫した(しすぎた)が路銀も気力も体力も充分に回復した俺たちは、いよいよ図書館を目指すことにした。時間かけすぎだろ。時間はかけたが触手も全部生え揃ったし、ブレンたちも体力も全開した。これなら余程の相手でもない限り勝てると思う。


「紫ゴブリン被害者の会も戦力充実したなぁ……」


 勇者に魔法使い(回復あり)、巨大馬、ヴァンパイア夫婦にドラグニュートである。ゴブリン相手だとするなら過剰戦力にもほどがある。肉片すら残らなさそうな気がする。


「しかし紫ゴブリン自体が親玉ってオチはないよね」

「まぁな。そう考えるべきだろうな」


 エウロパの言う通り、もっと上にヤバい奴がいると考えるべきだろうな。そう考えると、これでも足りない可能性も否定できない。


「親玉ってどんなヤツだろ?」

「魔王……じゃろうな普通に考えると」

「しかし始祖、魔王が滅んでから数千年ですよ。それがたまたま現れるということは考えられますか?」


 ヴァンパイアの言うことにも一理はある。あるが、ここでは最悪のパターンを考えておくべきだな。つまり魔王、もしくはそれに準じるヤツがいると。でも俺は戦いたくないぞ。


「魔王と戦うとか俺はごめんなんだがな」

「妾だってそうじゃ。しかし、フェニックスすら操れるモノなど、ゴブリン単独で作れると思えんのじゃ」

「つまり決戦は不可避、ね」

「ファブ、それは困るぞ」

「あなたも頼りにしてるわ触手さん」


 抱きつくなよキモいからなんか当たってるし。口には出さないことは覚えたけど、ファブリーにも触手でも生えてればいいのにな。


「俺は故郷に帰りたいだけだぞ」

「しかし触手、お前結構強いし頭もいいし、充分戦力にカウントされてるの自覚してないのか?」


 お前が言うな会長ブレン!この化け物どもと同類だと!?こんな部屋で寝られるか!俺は別の部屋で寝るぞと言いたくなる。


「触手よ、悲しいお知らせがあるがいいか」

「なんだよラコクオーまで」

「どうもな、お前の故郷の手前の学園都市、魔王軍に占拠されてるらしい」

「おいぃ!!」


 あーこれどうやっても戦うパターンじゃないか!何考えてんだクソ魔王!


「ちょっとまってラコクオー、ぼくの知識が間違ってないとすると、学園都市って……」

「図書館あるところの手前だろ?」

「ブレン、しばらく復活できないね」

「どこに話しかけてるんだエウロパ、デリカシーなさすぎるだろ」


 エウロパがブレンの下半身に話しかけている。デリカシーは死んだ。もういない。それにしても可哀想なブレンの触手よ……復活できないとは哀れなり。何が何でも倒さないとダメだなこれ。どれだけあいつら俺たちのヘイト稼いでるんだ?憎しみで魔王が殺せるなら。


「俺たちも強くなってるんだ、とっとと奪還して俺は故郷に帰らせてもらうぞ」

「その前に天空都市通過する必要があるんだけどね」


 なんだよエウロパ、天空都市って。


「天空都市?」

「古代の人類が生み出した都市だよ。今でもそこに人が結構住んでるんだけどね」

「ひとまずつぎの目的地そこか」

「そうだね」


 天空都市か、どんなところだろうか?そんなことを考えながらも、いつものように始祖にしごかれながら全力疾走である。体育会系にもほどがある。図書館に着いたらしばらく文化系に戻るぞ俺は!


 そうやって全力疾走を続けて数日。


 俺に口があったら開けっ放しになっているだろう。その光景を見たブレンやエウロパ、ファブリーは大きく口を開けている。


「ねぇ触手」

「なんだよエウロパ」

「あの塔ってどこまで続くんだろう」

「さぁ」

「宇宙にまで出られたそうじゃ、かつては」


 宇宙?宇宙ってなんだよ始祖。


「宇宙?」

「そうじゃ。夜になると星が見えるじゃろ?あれは空の遥か遠くにある太陽のようなものじゃ」

「うそ、すごく小さいのに」

「ものすごく遠くじゃからな。ちなみに太陽より大きな星もあるのじゃ」


 なんでそんなこと知ってんだよ始祖は。一同が始祖の説明を聞きながらその塔に圧倒されている。その塔の先だが、見えない。凄く遠すぎて見えない。こんな塔があるとはなぁ……。


「妾の母がよく語ってくれたものじゃ。古代の人類は星々をも渡る旅をして、色々なものを手にし、そして失ったと」

「ダメだ全く理解できない」

「ぼくもだよブレン」


 とにかく巨大な塔の中にあるという都市を目指そう。塔に向かってどんどん走って行くと……マジかよ想像以上にでかいなこの塔。塔自体が巨大な都市だと言われてもこれなら納得ができる。


「凄い」

「このどこから入ればいいんだ?」

「普通に入り口はあるぞ」


 始祖の指差す方を見ると、門番の衛兵たちが塔に入る人をチェックしている。普通か。


「妾たちも入るとするか」

「そうね」


 大丈夫なのか?と思ったが、俺たちについてはすんなり入れた。触手大丈夫なのか?と聞いたらどうやら俺はエウロパの従魔扱いらしい。触手従えてる魔法使いってどうなんだろうな。変態扱いされないのだろうかって痛い痛い!


「誰が変態だよ!」

「心を読むな心を!プライバシーってもんがあるだろ!デリカシーないな!」

「でもなんで心が読めるんだエウロパ?まさかみんなの読めるのか?」

「それは大丈夫だよ。触手だけ、従魔のリングで読めるんだよ」


 そんなもんつけるなと言いたいところだが、付けないと入れないんだろうな街とか。これは仕方ない。もっと俺が知能なければよかったんだが。


「でもエウロパ。例えばブレンのブレンに付けたりするだろ、従魔のリング」

「付けるとするね」

「付けるな付けるな!」

「心とか読めるのかそれで」

「できるね」

「できるなできるな!」


 そりゃブレンも焦るだろうな。プライバシーもデリカシーも無くなるだろうからな。


「もしブレンが悪いことしたら、従魔のリングブレンのブレンに付けるのもありだね……フフフ……」

「ひっ!」


 済まないブレン。俺の次の触手はお前のようだ。強く生きよう、な。


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