第9話 キンバリーさんの話と報酬

 キンバリーさんの話を要約すると


・ここ数年、国内の鉱山の鉄の産出量が下がっている


・最近、鍛治師組合に大量の武具の発注が国から入っている


・数ヶ月前からこことは反対側の東の国境の街に大量の物資が搬入されている


・現在鉄鉱石は東の国々から輸入している


 以上これらのことから考えると国が鉄鉱石不足から隣国へと侵攻しようとしている。そのために鍛治師組合に武具を大量発注している。

 という感じだろうか?

 実際ゴッツの親方のところには剣の大量発注が掛かっていたのを俺は思い出していた。


 とはいえ疑問に思う点もある。

 国が隣の国に戦争を仕掛けようとしているのではないかという推論が事実だとしてもゴッツの親方が俺をクビにする必要はなかったはずだ。

 まあ、それについては後で考えるなり調べるなりするとして今は先にこの情報を持って来てくれたキンバリーさんにお礼を言う方が先だろう。


「キンバリーさん、情報ありがとうございました。とはいえ、一介の冒険者である俺にこんな情報を渡しても良かったんですか?」


 そう俺が言うとキンバリーさんは不意に真面目な顔になり姿勢を正すと頭を下げて


「この度は当組合の不手際により依頼背景の不明瞭なものを斡旋しましたこと誠に申し訳ありませんでした。また今回の情報についてですが、後日この街にいるすべての冒険者に対して通達する予定ですので問題ありません。」


と頭を下げながら謝罪と返答をくれた。

 俺としては受付で調べるとは言われていたもののいち冒険者に過ぎない自分にこんな情報を報せても良いのかと思ったに過ぎないのだが、冒険者組合としては今回の件は組合の不手際であり重大な問題であると考えていることがキンバリーさんの様子から見てとれた。


「キンバリーさん、頭を上げてください。今回のことは鍛治師組合に所属している俺でなければ依頼の不自然さには気付けないようなものだったと思います。ですので、謝罪は不要です。」


 キンバリーさんは一向に頭を上げようとしなかった。俺はほとほと困ってしまい最終的には謝罪を受け取るしかなかった。

 謝罪を受け取ってようやくキンバリーさんは頭を上げてくれた。


 その後キンバリーさんは冒険者組合へと帰っていった。

 帰る間際トレントの報酬が用意できたことを教えて。


◇◇◇


 翌日俺は早速冒険者組合へと足を運ぶことにした。


「トレントの報酬が用意できたと聞いて来たんですが......」


「はい、トルゲさんですね。ご用意出来ていますよ。」


 「こちらになります。」と受付の女性(キンバリーさんとは別の人)はカウンターに金が入った袋をどさりと置いた。


「はい、ありがとうございます。」


 袋の中身を確認すると小銀貨5枚と大銅貨25枚が入っていた。

 慣れたとはいえ物価が前世と大分異なるので実感しにくいのだがおおよそ一般的な家庭で一月に大銀貨5枚の月収なのを考えると今回のトレントの報酬は中々のもののようである。


「トルゲさんが討伐したトレントは最も需要のある幹の部分が大分破壊されていましたので、その分報酬が下がっています。次回討伐するならばなるべく幹を傷つけない方が良いですよ。」


 次回からは注意しよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る