第7話 電話

「俺はそんな指示は出していないぞ。依頼人をあんたの落ちあう場所に案内するように言っただけだ」

「部下の監督はもうちょっとしっかりとやるんだな。どいつがお宅らの構成員か知らんが全員発砲したぜ」


「手下の一人が迷惑をかけたのは悪かった。今後は気を付けよう。用はそれだけかい。それじゃあ、俺も忙しんで……」

「いや、まだ報酬をもらっていない。札束の両側だけ本物の札のものを25個受け取ったが、約束の報酬にはちょっと足りないな。それにまだ商品の受け渡しも終わっていない」


「まだ仕事を完遂しようってのか。律儀なもんだ」

「いや、仕事は。とぼけなさんな。商品は俺の手元にあるんだぜ。さて、依頼人の名前と居場所を聞こうか」

「俺が言うとでも」


「言いたくなきゃ言わなくてもいい。その時はジョバンニ、あんたは終わりだよ。この件があんたの独断ならカミーロにあんたは粛清される。そうじゃないときはニューヨークのファミリーが一つ消えるだけさ」

「おい、調子に乗るなよ。コソ泥風情がいい気になって……」


「ああ、そうだな。だが、そのコソ泥にも知り合いがいるんだ。ニューヨークで一番のマルゲリータを食わせる店のオーナーさ。食通ルクルスマルコ。知ってるだろ?」

 電話口の向こうが沈黙する。しばらく間が空いてジョバンニは口を開く。


「まさか、こうなるとは俺も思っていなかったんだ。俺も騙されたんだよ。信じてくれ。この落とし前は俺がつける。あの野郎、俺の顔に泥を塗りやがって。金はきちんと払う。前金を振り込んだ口座に24時間以内に……」

 俺は電話を切り、古ぼけたビルの外階段を静かに2階降りて、開いた窓からそっと入る。


 中では、一人の骸骨のように痩せた男が、携帯電話を握りしめ呆然としていた。

「やあ、ジョバンニ。直接会って話した方がいいと思ってね」

 頬を殴られたように俺の方を向くとジョバンニはガタガタと震えだす。

「ニンジャ・マックス。俺も知らなかったんだ。まさかあんたを殺ろうとするなんて。頼む。殺さないでくれ」

 


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