第4話 実行

 盗みの実行は、期限間近の土曜日の夜となった。天気予報通り曇り空で風が少し強めに吹いている。レンタカーをスカースデールの街まで運転する。車を標的から数ブロック離れたところに止め、パーキングメーターに25セント硬貨クォーターを数枚入れる。荷物を持って路地裏に行き、ゴミ缶の裏で黒装束に着替えた。


 影のように走り、マイヤー家の屋敷にたどり着く。簡単に柵を乗り越えて敷地に侵入した。風下から建物に近づく。裏口の扉に近づくとイヤフォンからメリッサの声が聞こえる。言われた通りの4桁の数字を入力すると電子錠はピッという音と共に開錠した。


 素早く中に入り扉を閉める。建物の中はほぼ真っ暗だ。メリッサ特性の暗視ゴーグルを片目に付けているので行動に問題は無い。赤外線レーザーが濃い緑色の輝きとなって映し出される。忍者の体術をもってすれば回避するのに困難は無かった。


 階段を上り、2階の書斎の前に立つ。ここは物理的なシリンダー錠だ。器具を差し込んでくすぐってやると手ごたえがある。ゆっくりと回すと錠が開いた。部屋の中のレーザーも回避して、キャビネットの中の金庫と対面する。古典的なダイヤル回転式金庫。


 これが簡単に開けられないようなら泥棒を職業にはできない。指を軽く曲げ伸ばししてダイヤルに取り組む。5分もしないで金庫は開いた。金庫の中央に鎮座しているラシャ張りのケースを取り出す。開けて見ると青い涙が収まっていた。ケースごと取り出し、金庫を閉める。


 今までの手順を逆に繰り返し、無事に敷地の外まで出る。ここまで異常なし。ゴミ缶の裏で着替えを済ませ、車に戻る。尾行の有無を確認しながら、慎重に運転し、レンタカーを返す。手近なバーに入って10ドル札を置き、ギムレットを注文した。 

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