古代遺跡の地下に眠る驚異の戦闘ロボ

 ドガァン バガァン ボゴォン

 ツルハシを振っては歩き、振っては歩きを繰り返して、俺は罠だらけの通路を迂回するように穴を掘る。


 地中ソナー能力で確かめたところ、罠だらけの地下通路は数か所の上り坂と下り坂が途中にあるものの、全体としてはほぼ水平に伸びていた。

 そういうわけなので、入り口部分と最奥部の高さはほぼ同じ。だから、俺はこれまで通り何も考えずに穴を掘っていた。

 これまでと違う部分は、さっき拾った盾とスケイルアーマーが微妙に邪魔ってことくらいだろうか。

 とはいえ大した支障にもならず、俺は予定通り最深部までの迂回路を掘りきった。


 バゴォン! と騒々しい音を立てて分厚い石壁を粉砕。

 俺は地下通路の最深部、大理石風の壁に囲まれた空間に足を踏み入れた。ちなみに、周辺に罠が仕掛けられそうな不審な構造がないことは事前に確認済みだ。

 最奥部の部屋は、素人がポリゴンで作ったんじゃないかと思えるほどのシンプル&殺風景な立方体だった。

 そのあまりの殺風景っぷりに、視線は否応なく部屋の中央に唯一存在するに吸い寄せられた。


 大きさは1メートル半。直立する人型で、赤銅色の金属の……なんだろう。

 一瞬、甲冑か何かにも見えたが、それにしては隙間がないし内部まで構造がみっちり詰まっている。

 関節部からチラッと見える内部構造の複雑さからすると、マネキンのたぐいでもなさそうだ。

 あと直立不動の姿勢と目を閉じている表情からして、銅像とかでもないだろう。普通の像ならもっと違うポーズをするはずだし。

 しいて言うなら、スリープモードのヒト型ロボットって感じだろうか。塗装をちゃんとすればそれっぽくなりそうな雰囲気はある。

「……いや、そんなことはどうでもいい。問題はこれをどうやって運び出すかってところだよな」

 こういうロボット的なものがヒト型の見た目に反してやたらと重いというのはよくある話だ。特に目の前のこれなんか、身長は150センチ程度だが見るからに全パーツが金属でできてそうだし、はちゃめちゃに重い可能性はある。

「まあ、とりあえず担いでみるか」

 俺はツルハシを腰のベルトに下げ、部屋の中央に鎮座するロボット的な何かに歩み寄った。

 近寄るといろいろと細かい部分まで見えてくる。

 例えば、手足や胴体の曲線が女を模して作られているということ。

 足は靴のようになっていて指はないが、手の指はしっかり5本揃っていて爪のような模様まで付いていること。

 顔は特に造形に気合が入っていて、目鼻口はもちろんのこと、唇や鼻筋、人中のような細かな凹凸まで再現されているということまで見えてくる。

 そして、あと一歩まで近づいたところで、異変が起きた。


 カシャ


 カメラのシャッターが開閉するときのような、ささやかな音。

 見ると、ロボットのまぶたが開いていた。

 そして、キュイと小さな音を立てて首が動き、金属製の顔が俺を見た。赤銅色の唇が開く――

「侵入者ヲ確認。『迎撃プロトコル』ヲ開始シマス」

 …………迎撃プロトコル!?

 俺は呆然としていた意識を無理矢理切り替えて、真後ろへと走った。

 予想外の事態に「ロボっぽい声だなー」とか一瞬考えてしまったがそれどころではない。

 そしてアレはロボはロボでもただの綺麗なロボットじゃない。

「エネルギーチャージ開始。充填率30パーセント」

 古代文明が作り出した戦闘用ロボットだ!


 俺は今さっき掘ってきた迂回用の穴に迷わず飛びこんだ。

 ありがたいことに迎撃の攻撃はチャージのために時間を要するようだが、裏を返せば、ちょっとやそっとじゃ防げない必殺技である可能性が非常に高い。

 全力で逃げないと、死ぬ。

「充填率50パーセント」

 後ろから無機質なロボットの声が響いてくる。

 とにかく、穴を掘りまくるしかない。

 俺は覚悟を決めて、ツルハシを握りしめ、掘りまくった。

 走りながらひたすらに腕を振って、掘る、掘る、掘る。

 呼吸する暇もないくらいに走りながら掘りながら、俺は地中を突き進んだ。

「80パーセント」

 途中で何度も方向を変え、ジグザグに掘り進みながら距離を取り続ける。もう100メートルは掘り進んだだろうか。

「95パーセント」

 俺は手を止めて、最後にボゴッと小さい穴を下に掘った。その中に体を丸めて入り、背負っていた円盾で蓋をした。

 ……これでダメなら仕方ないだろ。

「充填率100パーセント。

 発動、『ダブル・メルターレーザー双撃融解光線』!」


 瞬間、世界が赤く染まった。


 ズドドドド……という地響きのような轟音。

 金属の盾で蓋をしているのに――いや、それ以前に100メートル以上掘った穴、しかも途中で何度も折れ曲がった穴の向こうにいるのに。

 ごく僅かな隙間をすり抜けて、赤い光が届いていた。夕日を思わせるような赤い光が、眩しいくらいの光量で俺が潜り込んだ小さな穴を照らし出して――


 ……そのまま時間が過ぎて、何事もなかったかのように赤い光は収まった。

「……終わりか?」

 答える声はない。さらに何秒か待ってみても何も起こらない。

 とりあえず、戻って確認してみるしかないか。


 盾を押し上げて外に出ると、焦げ臭いにおいが一気に鼻に入ってきた。

 暗くて見えないが、一帯の土はどうやら火で焼かれたように炭だか灰だかになっている。この盾のおかげで助かったんだろうか。

 左手に盾、右手にツルハシを構えて、俺は来た道を戻った。ある程度行くと、さっきの攻撃のせいか穴が完全に塞がっていたのでツルハシで掘り進む。

 そうしてもう一度最奥部にたどり着いた俺だったが、今の数十秒で明らかにそこの地形は変わっていた。

 俺が掘った直径2メートル程度だった横穴の出口は、直径20メートルくらいの横向きのクレーターに変貌していた。その横向きクレーターの表面には、よく見るとキラキラ光る石がたくさん付着していた。おそらく、先ほどの攻撃で超高温に達した土の成分がガラス化したのだろう。

 想像もしたくないが……まともに食らっていたら死体が残ったかすら怪しい。

 それで、そんな恐ろしい攻撃を繰り出してきやがった古代文明ロボはというと――両手を前に突き出したまま固まっていた。


 近寄りたくはない。

 が、こんな物騒なもんを放置していくわけにもいかない。何かの間違いで街を襲ったりしたら大惨事だし。

 ツルハシを世界最硬アダマンハルコンの聖剣に持ち替えて、おそるおそる俺は近づいた。また攻撃してくるようならその前に叩き壊してやるつもりだった。

 だが、1メートルの距離まで近づいても赤銅色のロボットは動き出すそぶりすら見せず、両腕を突き出したまま微動だにしない。

 壊す気マンマンだったから動いてくれないと逆に困るんだが。

「……おーい」

 いきなりぶん殴るのもなんかあれなので声をかける。

 反応して攻撃してきたら殴る、反応なしなら念のため叩き壊して運び出す。

 そう決心して待っていると、ロボットは返事をした。

「エネルギー残量ガ低下……『迎撃プロトコル』ヲ強制終了シマス」

 そう言うとロボットはまぶたを閉じ、電池が切れたかのようにガクッと首を傾かせた。

 予想外の展開に俺が戸惑っていると、今閉じたばかりのロボットの目が開いた。ただし今度は半開きで。

 そしてさっきまでとは違う声がロボットの口からこぼれてきた。

「お……」

「お?」

「おなかすいたぁ~」

 かわいらしい少女の声で、古代文明の驚異の戦闘ロボは泣き言をもらした。

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