第3章 ペアレンティング・クライシス ⑦2回目の公園

 次の休日も公園に行くことにした。

 マンションから少し距離はあるが、住宅地にある公園を探して申し込んだ。そこは小さな公園で、遊んでいる親子も2組しかいなかった。

 美羽の元に男の子が駆け寄って来たので、自然とその子の母親とも挨拶を交わし、「レンタルベイビーですか? 慣れるまでは大変ですよね」「もう、毎日ヘトヘトです」と当たり障りのない会話をした。

 レンタルベイビー警察もいなければ、合格至上主義の人もいない。美羽はのんびりと1時間ほど過ごした。

 ――ここはいいな。来週もここに来よう。

 帰ろうとすると、空がむずがって泣き出した。おむつは濡れていないので、ミルクをあげようとしたが、拒否する。長時間外に出ていて、疲れたのかもしれない。

 ――ベビーカーを押していたら、泣き止むかも。

 美羽はその場にいた母親達に挨拶して、公園を出た。すると、出口のところで高齢の男性が腕組みをして立っている。

 ――中にいる親子のお迎えかな。

 会釈しようとしたとき、「うるさい、早く泣き止ませろ! 公共の施設で何やってるんだ!」といきなり怒鳴られた。美羽は固まった。

「オレは公園の隣に住んでるんだ、ホラ、そこの家。この公園は防音壁になってないから、赤ん坊が泣いたら、うちまで響くんだよ。うるさくて昼寝できないから、さっさと泣き止ませろ!」

 怒鳴りながら、老爺の顔はみるみる赤くなっていく。空は老爺の剣幕を感じ取ったのか、さらに泣き声のボリュームが上がった。

「うるさい、オレは赤ん坊の泣き声は大嫌いなんだ!」

「すすすみません」

 美羽は慌ててベビーカーを方向転換すると、早足でそこから去った。

「泣き止ませられんなら、もう連れてくるな!!」

 老爺の罵声が背中に浴びせかけられる。

 美羽は怖くて振り返れない。角を曲がったところでスピードを緩めかけたが、またどの家から怒鳴られるか分からない。

空は体をくねらせながら大泣きしている。

「空ぁ、もう泣かないでえ。もうちょっとの我慢だから、ね、ね」

 あやしながら、美羽は急いで住宅地から出ることにした。

 ――あの公園、人が少なかったのは、あのおじいさんがいるからかも。あの公園もダメだあ。別の公園にしなきゃ。

「あー、もう……」

 美羽は信号待ちしながら天を仰いだ。

「子育てしづらすぎだよ、この国」

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