第5話交換

 授業が始まっても、全く集中出来なかった。

 直樹は勃起しないように必死で別の事を考える。

 しかし時折、左手を包むソフィアの手触りを想起した。

 家に帰ったら、手を洗わずにソフィアに握られた左手で自分の男根を激しく扱き自慰に耽るのだろうと予感する。




 全ての授業が終わり、下校時間になる。

 直樹は考えた。

 ソフィアに挨拶してから帰るべきなのか。

 或いは途中まで一緒に帰ろうと誘うべきなのか。

 そしてそれは直樹だけでは無かった。

 空蝉高校の男子生徒達は遍く同じ悩みに頭を擡げている。

 経験値ゼロの男子高校生には判断する術が無かった。




 気が付くと直樹は下駄箱で靴を履き替えていた。

 明日考えよう、と直樹は思った。


 校庭を歩き出すと、後ろから声がする。


「直樹くーん!」


 振り向かずとも誰だか分かった。

 この柔らかな調べはソフィアの声に違いない。

 果たして振り向くと直樹の名を呼んだのはソフィアだった。


「ど、どうしたの?ソフィアさん」


 直樹は努めて平静を装う。

 それは今までの冷笑的な態度や斜に構えた心積もりとは全く違い、ソフィアに嫌われたく無い一心での事だった。

 ソフィアは駆け足で直樹に歩み寄る。

 ソフィアが足を動かす度に、チェックのスカートがひらりひらりと舞い、ニーソックスとの間に顕現した絶対領域が直樹の精神を嘗て無い集中の高みへと導く。

 直樹の直ぐ傍までやってきたソフィアは前屈みになり両手をそれぞれの膝に置き息を切らす。


「はっ、はっ、はっ」


 ソフィアは呼吸を整える。


「びっくりした」


 微笑みを見せながら、ソフィアは直樹に言った。


「え?うん、びっくりした」


 直樹は答える。


「へ?あっ、そうじゃなくてね、直樹くんが帰ろうとしてたから、私びっくりしちゃって、慌てて追いかけて来たの」


 駆け足で来たソフィアの顔は少し紅潮していて、妖艶だった。


「そ、そうだったんだ」


 直樹は少し赤面する。てっきり質問されたものだと思ったのだ。


「番号、交換しよ」


 ソフィアは携帯を取り出す。


「う、うん!待って」


 直樹は慌てて携帯を取り出す。

 そして互いの番号を交換した。


「交換完了!」


 ソフィアは朗らかに笑う。


「直樹くんって何処に住んでるの?」


「えっと、三丁目の辺り」


「そっか、私、二丁目に住んでるから、途中まで一緒に帰ろうよ」


「う、うん」





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