第4話となり

 新設された校舎は流石に清潔感がある。

 2-Fに到着し、席を再確認した。

 直樹の席は廊下に面した最後列だ。

 教室に入ると、うら若き乙女たちの香りが聴こえた。

 窓辺から射し込む陽光が天使たちの後光となり荘厳さを醸し出す。

 間近にすると、男子生徒達は緊張に囚われる。

 直樹は席を見た。

 誰も隣には座っていない。

 廊下側に自分が座り、窓の有る左側に、壇上に舞い降りた白人美少女の内の誰かが座るのだ。

 そう考えると、混乱した。

 自分の隣の席に座るのは一体どんな女生徒なのだろうか、と思案する。

 聞き取れるほどに鼓動を高鳴らせながら直樹は着席した。

 虚空を眺めるばかりでも、天使たちの姿が映り込む。

 手に汗をかく。


「お隣ですね」


 声がした。

 喉仏の隆起した男からは決して生まれ出ない声だった。

 誰に話しかけているのだろうか、と直樹は考える。

 自分に対して話しかけているのならば、返事をしなければ折角の青春を台無しにしてしまう。

 かといって、自分以外の人間にかけられた言葉に振り向けば滑稽だ。

 しかし思案する時間も無いが故に直樹は恐る恐る振り向く。

 振り向いた直樹の顔の直ぐそばに、彼女の顔が有った。

 青空が見えた。

 直樹はそう思う。

 しかし、それは違った。

 彼女の青く輝く眼が、直樹を見詰めていたのだ。

 彼女が背にする窓からは青空が広がる。

 そしてそれよりも眩く彼女の眼は深く輝き澄み渡っていた。

 雲のように白い肌。

 晴天を照らす太陽のように輝く黄金の髪。


「初めまして。ソフィア・エレノールです。よろしくお願いします」


 彼女はソフィアと名乗った。

 ようやく直樹は目の前の美女が壇上で答辞を述べたソフィアだと気付く。


「あっ、えっと、山田直樹です。よろしくお願いします」


 慌てて自己紹介をした。

 自分の顔は真っ赤になっているのだろう、と直樹は思った。

 それが分かるほど、直樹の身体は熱くなっている。


「今日からよろしくね、直樹くん」


 ソフィアはニッコリと微笑む。

 ソフィアの桃色の唇の両端がキュッと上がる。

 そして、だらりと椅子に付けられていた直樹の左手をソフィアは手に取り、胸の高さまで持ち上げると両手で包み込む。

 直樹は左手で自慰に耽る。

 その左手を、ソフィアの白い両手が優しく包み込んでいた。

 ソフィアの掌は柔らかさと滑らかさが同居している。

 直樹の身体は熱くなっていたが、ソフィアの肌の温もりは確かに感じた。

 直樹は恋に落ちていた。



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