終章 苦手分野は、補い合えばいい

 ふと気配を感じルーチェは左隣を振り向く。そこには呆れた顔のアヴィスが立っていた。

「アヴィスくん!? 危ないから下がって!」

 ルーチェの言葉にアヴィスが厳しい口調で言う。

「アンタ、人を頼れるようになった方がいいぞ」

 そう言って自分の魔力貯金箱を差し出す。そして真剣な表情をする。

「魔力はそれで補え。ところで強化魔法使えるか? 使えるようなら強化と後方支援を頼む。あとはわたしがなんとかするから」

「なんとかするって……」

「いいから早く!」

 激しい口調にルーチェは慌てて強化魔法をかけた。

「略式詠唱による強化だから長持ちしないけど……」

 心配そうな顔の彼女に向かって彼は不敵に笑う。

「数分てば十分だ」

 そう言ってドラゴンに向かって走り出す。新たな敵の出現にドラゴンが炎を吐き出す。ルーチェは魔力貯金箱から魔力を吸収しながらアヴィスの前に防御壁を展開し、炎をはじく。

 アヴィスとドラゴンの距離が縮まったとき突如アヴィスの手に一振りの刃が現れた。アヴィスは刃を構えドラゴンとの距離を一気に詰めると、左右に刃を振り払った。倒れるドラゴン。辺りには静寂が広がった。

「アヴィスくん、あなたもしかして……」

「気づいたか。……私の職業は、勇者だよ」

 そう言ってアヴィスは複雑な顔をする。

「わたしは補い合える相手がいればいいと思っている。私は魔法は使えないが剣で戦える。アンタは魔法が使える。ピエルから聞いた。アンタ退職するんだろう? 今後のことが決まっていないのなら、私の旅に同行してほしい。アンタがいればきっと私の旅は安泰だと思うから」

 むろん、給金は出すぞと付け足してルーチェを見たアヴィスは言葉を失う。彼女は泣き笑いの表情を浮かべていた。

「私なんかが同行して足手まといにならない……かな」

「もちろんだ、私が保証する。アンタは一流の魔術師だ」

 それを聞いてルーチェは嬉しそうに頷き、アヴィスの手をぶんぶん振り回した。

 ルーチェは退職後、自主退学申請をしたアヴィスと共に旅に出た。ルーチェのその時の笑顔は今まで学舎で見せたどの笑顔よりも、嘘偽りのないものであった。ある分野において「落ちこぼれ」と言われた二人の旅の行方は、誰も知らない。

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落ちこぼれ魔法講師の生徒 工藤 流優空 @ruku_sousaku

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