好奇の目に晒される我

 我の話か!?

 

 どうやら我の他のクラスメイトも沙羅の話を聞いていたらしい。ほぼ全員が静かになって我の方を向く。

 

「!?」


 いきなり注目されたものだから、びっくりする。

 お前ら、どれだけ沙羅のことを気にしているんだ。普通の話をしている風を装って、お前ら全員聞き耳を立てていやがったな。

 だがまあ、そうだな……。

 可愛いし、勉強も運動もできるし正義感が強くて、正義感だけではなくて力も強くて、貴様らは知らないだろうが実は涙もろいところもあったりして。憧れを持つのも、分からんでもないがなあ!! 


「……えっ。本当に……? 沙羅ちゃん可愛いのに……」

 

 凜乃がこちらを見ながら嘘でしょう? という顔をしている。千夏はなんだかあちゃーという顔をしながら、申し訳なさそうだった。


 何の話かその一言で分かってしまった。分かりたくなかったが、分かってしまったものは仕方がない。


 沙羅に恋人がいるかどうかという話で、我の話がでたのか。


 かわいいって……おい。

 この絶世のイケメンを捕まえて、何を……!


「目つきは悪いしロンゲだし微妙に青白いし、どこが良くて付き合ったの? まあ、身長は高いけど」

「えっ、どこが良くて……?」

 

 沙羅は顎に手を当てて、我をちらちら見ながら考え込んだ。

 

 ――おい、止まるんじゃない。

 

 そして、まさか本人が聞いていることに気づいているのに、これから一緒に過ごすことになるであろうクラスメイトに悪口を言われるとは思っていなかった。


「目つきが悪いのは否定しないけど、一応まああれでいいところも、ある……かな?」


 なんで疑問形なんだ!!


「一緒にフラフラの子猫を看病したりしたし。カツアゲやってる人や喧嘩を止めたりするところもあるし」

「そっかー、いいところも一応あるんだねえ」

「ちょっと凜乃」

 

 って……。

 ここまでくるとむしろ恐れ入るわ。

 本当にこのツインテール娘は失礼な女だな。

 それをいさめようとする千夏はまだ常識人のようだ。


 だが、少しびっくりした……。 

 沙羅は我が単純に暴れていたわけではないことを知っていたのか。

 正直暴れたいと思った時に、そういう相手の方が都合が良かったのもあったんだが。暴力を振るうことを前提にしているようなやつはぎょしやすい。


 それに、我も確かに知っていた。

 本格的に事が始まる前に沙羅が止めるのを。

 実際、乱入して暴れてやろうと思う瞬間に来るのだから……。タイミングが良すぎてこちらがビビるくらいだった。

 

 だが、沙羅には何を言われても、なんとなくまあ仕方ないかと思う部分もあったのだが、他の奴に悪口を言われるのはこんなに腹が立つのだな。

 我は、『はっはっは、この我に生意気な口をきくとは、なかなか面白い奴よ! 気に入ったぞ!』とかなるタイプの魔王ではないぞ!!

 普通に腹が立つし、そういう奴は消し炭にしてきたタイプの魔王だ。

 

「お前、俺のことを何も知らないくせに、人のことを好き勝手言――」


 立ち上がり反論しようとするとチャイムが鳴る。

 ちっ、一方的に言われたままになるなど、消化不良だが仕方あるまい。


 ――しばらくして、ガラガラと前方の扉が開いた。


 入ってきたのは……、とんでもない体型の美女。

 峰不二子役として次の実写映画に出ます。と言われても遜色のないほどの……、凄い乳に凄い括れ。乳だけで言えば、叶よりも小さい気がするが。

 そしてそれを強調するかのように、体にぴったりと吸い着くようなぴっちぴちの白いシャツに灰色のジャケットと膝上ほどのタイトスカート。そして緩やかにウェーブした、茶色い髪。

 我は別にどうということもないが、クラスの他の男連中の目は、その教師にくぎ付けになっている。


 ――やれやれ、ガキどもめ。


 あのくらいの体型なら、サキュバス連中にもたくさんいたものだが……。


 だが、こちらの世界に来てびっくりしたのは、どうやら人間の体型にはおおよその範囲があって、それに縛られているということだ。

 魔族の体型は千差万別。魔人ですら、大きい者なら教室の天井を突き破る程度から小さい者なら、幼児位の者までいたから。そう考えると、我が魔王であった時の体型と今の体型はほぼ同じくらいと言える。不思議な符号の合致に、疑問を感じないこともない。

 まあ、たまたまであろうが。

 

「おはようございまぁ~す☆ このクラスの担任の、更科さらしなみちるです! これから一年間、よろしくねみんな! はい、では初日から休んでいる人もいないと思うけど、出欠取るから、それに簡単な自己紹介をお願いね~。じゃあ、出席番号一番から順に――」

 

 派手な体型の割には普通の教師だった。それは偏見か。

 滞りなく進んでいく自己紹介。


「じゃあ、次。出席番号五番、甲斐田真央君」

「はい」


 我の目的は、世界征服――。 

 好きな言葉は 天上天下てんじょうてんげ唯我独尊ゆいがどくそん――。

 我の配下に下りたいものは、どんなやつでも受け入れるから我のところへ来なさい。


「甲斐田真央です。江吉第二中学校出身です。え~、別に得意な事とかないです。ええっと、一年間……よろしくお願いします」

 

 中学校の時は、大失敗したから、今度は無難にいこうと思ったら、これはこれで微妙だったらしい。他の者は、部活は○○をやってました~、とか。趣味は○○です。とか言っているが……。

 なんか我も趣味とか作っておくべきだったかと、今更思っても遅かったが。 

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