第三回7日目だけ鬼ごっこなのに隠れやがって。

ちびまるフォイ

そして今日が失われて明日が憎まれる

集められた7つはお互いを見合わせていた。


「みなさん、今から7日後に全市民があなた達を捕まえにやってきます。

 その前の6日間で、7日目を3回乗り切れるように準備してください」


「捕まったらどうなる?」

「人でなくなります」


全員が散り散りになって、7日目に向けた準備がはじまった。


「まるで3匹のこぶたになったような気分だな……」


知ってから知らずか1人は6日かけて、

レンガの家どころか要塞を作ることを決めた。


「はっはっは! 捕まえに来てみろってんだ!

 6日あれば要塞づくりなんて楽勝だぜ!!」


慌てて自分も中に入れてくれと頼んで見たが、

わずか1日目にしてできた要塞の門の前で跳ね返された。


「ダメだ。お前は中に入れてやらねぇ」


「どうして! 要塞づくりには人手がいるだろう!?

 俺ひとり中に入れれば、いくらでも協力するのに!」


「要塞の中で7日目を過ごさなきゃならねぇ。

 そのために中の人数を増やしすぎると、

 緊急脱出のときの逃げ道も塞がるし、連携もしずらくなる」


「そ、そうとも限らないじゃないか!」


「ゾンビ映画を見てないのか?

 そうやって内部でもめ始めてどんどんダメになるんだよ。

 すでにこっちは4人も入れている。これ以上入れる気はない」


「そんな……」


「よそ者は出てけ!」

「お前みたいなのがトラブルのもとなんだ!」


要塞内部からもヤジが飛んでくる。

仕方ないので次の場所を探すことにした。


「はぁ……どうしよう……」


ひとりしかいないので同じように洋裁づくりは難しい。

そうなると隠れてやり過ごすしかない。


6日必死に歩き通して、隠れられそうな地下の廃墟を見つけた。

本当にひと1人が入るのがやっとの小さなスペース。



第一回:7日目。



地下に隠れていても地上の騒がしさは伝わるほどだった。

全人類が大移動しているんじゃないかと思うほど、足音がひっきりなしに鳴っている。


お腹が減っても食べ物を買いに行くこともできず、

トイレに行くこともできず、うるさくて眠ることもできなかった。


「こんなことなら、もっと頼み込んで要塞に入れてもらえればよかった……」


7日目が終了し外に出てすぐに向かったのはあの要塞だった。

あと2回。7日目を耐えるには要塞に入れてもらうより方法はない。


「おーーい! 頼む要塞に入れてく……れ……?」


要塞にたどり着いたはずなのに、残ったのは廃墟とガレキの山だった。


「うそだろ。あんなに作り込んでいたのに1日で……」


頭の弱いゾンビがダラダラ押し寄せてくるのとはわけが違う。

明確な意思と知恵をもった人間が大群で押し寄せてくる。


要塞には爆破されたり、感電させられたり、強引に破壊されたり。

水の跡が残っていたりと、どれだけ強固に作られても無駄だとわかってしまった。


『残り3人です』


どこからか声が聞こえる。

次の7日目に備えなければ。捕まった4人のようになってしまう。


最初の7日目は要塞という存在が目立ったから人が割れて

おそらく地下にまで目が行かなかったのだろうが、次はそうはいかない。


いったいどうすれば……。


「……ダメだ。隠れるしか方法が思いつかない……」


臆病すぎる自分の性格を呪った。

前のように地下に1日こもり続けるのは体力に限界がある。


今度は人里離れた山奥に向かい、土葬するように穴を掘った。


ダブルサイズの棺桶を穴に入れて食料なども入れておく。

情報がわかるようにスマホなども合わせて入れると、4日目段階で穴に潜った。


要塞が1日で陥落したのは目立って人が集中したのもあるが、

準備に6日まるまる使ってしまったために、周りの人にバレてしまったのだと思う。


ホームセンターで大量の資材を買い込んでいれば

なんだこいつは、と怪しまれるに決まっている。


7日目に向けて無駄に目立つことだけは避けたかった。


「まるでミイラだ……」


みじめな気分になりながら土の中で7日目を待った。



第二回:7日目



土の中で今日のために充電していたスマホで情報を取る。

すでに地上ではお祭り騒ぎだった。


「いました!! あそこに立てこもっています!!」


ニュースでは人質をとって家に立てこもる1人が中継されていた。


「オラァ!! 誰も近づくんじゃねぇ!!

 怪しい動きを見せたら、こいつをすぐにぶっ殺すからな!!」


別の一人はヘリコプターに行方を追われていた。


「ただいま首都高を猛スピードで車が走っています!」


捕まえるのは警察ではなく全市民なので、

道路封鎖はおろか車両で道を塞ぐといった専門技術はない。


だから、移動する車の中が一番安全だと考えたのだろう。


「みんなすごい……!」


自分はといえば光の届かない土の中で、

誰かが掘り起こさないのを祈っているだけしかできなかった。



7日目終了後、地面から這い出すと、すでに2人とも捕まった後だった。


『残り1人』


人質をとって立てこもっていた1人も

不眠不休で耐えたが過激派の市民が火炎瓶を投げ込んだことで事態は急転。

そのまま強引に押し入られて捕まったらしい。


車で逃げ続けていた1人も、道路に罠を敷かれてタイヤがパンク。

交換しているスキに捕まってしまった。


このご時世、どこで何をして隠れようとも、

目立ちさえすればSNSで特定され遠隔操作で協力者が動く。


目をつけられてしまえば、それで終わりなんだ。


「ど、どうしよう……」


残りは自分だけになった。

あと1回7日目を耐えるにも、すでに市民は警戒マックス。


下手な動きをすれば「あいつじゃね?」と疑われ、特定され、捕まってしまう。


いっそ、ヘリコプターでも乗っ取り空に逃げ続けようかとも思った。

けれどそんな運転技術もないし、人を雇えば、そいつに自分がバレる。


悩みに悩んだ末に、結局、2回目と同じ穴を使い回すことにした。


怪しまれないように、買い出しは場所を変えて複数回、別の店舗で行った。


「どうか、見つかりませんように……」


穴の中に潜るとただ祈った。



第三回:7日目



これまで別の場所に割かれていた人員すべてが自分捜索に向けて駆り出される。

最終回とあって、今度は向こうも準備万端だった。


「この6日間、買い物をしたやつを調べろ!」

「そこに最後の1つがいるはずだ!」


「な、なんでバレてるんだ!?」


どうやら、7日目前の最後の準備期間。

その間に市民たちはお互いに協力して買い物を控えていた。


1日を乗り切るにはなにかしら準備するだろうと、

最後の1人が買い物することを見越していたらしい。


あっという間に潜伏中の山まで特定されてしまった。


「ああ、神様! どうか、どうかお助けください!」


しかし、地上の足音はどんどん近づいてくる。

地中の棺桶に隠れていても外の声が聞こえる。


「おい、このあたりの地面おかしくないか?」

「見ろ! なんか蓋があるぞ!!」


地面に似せた蓋がバレてしまった。

ギギギと蓋が開けられると、久しぶりに見る太陽の光がまぶしかった。


「いたぞ! ここだ!!」


「終わった……」


もうどこにも逃げ道はなかった。

諦めて目を閉じていると、そのまま去っていってしまった。


「あ、あれ……?」


「おいこいつは……」

「やめよう。こいつはこのままでいい」

「そうだな……」


自分の居場所はすぐに特定され、誰にでも捕まえられる状態。

それなのに、放置されたまま最後の7日目が終わってしまった。



すべて終わると、最初の案内役が戻ってきた。


「おめでとう、あなただけは人のままでいられましたね。

 よくぞ捕まらずに7日目を乗り切りました」


「どうして、私だけ見逃してもらえたんでしょう。

 他の6人はすぐに捕まったのに」


「あなたは元の姿に戻したくなかったんじゃないでしょうか。

 人のままでいてもらうほうが、嬉しかったんですよきっと」


案内役はパチパチと拍手した。



「月曜日さん。本当におめでとうございます!!

 これからも、人の姿でいられます!」



その日から、1週間のうち月曜日だけが失われた。

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