第26話女傭兵団


「リーブ!」


僕はジョブ・ガチャの世界から現実世界へと帰って来た。

頭に装着しているブレインを外し、身体の感覚を確かめる。

ベットから起き上がると、いつもの見慣れた僕の部屋。

扉を開いて、キッチンへ・・・・でも母さんはいない。

食欲をそそる味噌汁の甘い香りも、食材を炒める心地よい音も聞こえてこない。


「・・・・僕は・・・マザコンなんだな・・・」


現実に戻ると、突きつけられる孤独な時間。

時間が経ち悲しみは薄くなったが、それでも僕の胸は締め付けられる。

僕は母さんの面影を探して、病院から持ち帰った遺品を整理する事にした。

母さんが愛用していたバッグの中には、化粧ポーチ・病院の手帳・そして一冊の本が出てきた。

僕はパラパラと本を軽く読んでみた。


「・・・RAP食か・・・真島って先生が書いてるのか・・・・でも・・・もう母さんは・・・」


病気になった母さんを、健康にしてあげたかったけど・・・。

でも母さんが言ってたな・・・知識はいつか繋がって・・・誰かの役に立つって・・。

僕が助けたかった母さんは・・死んじゃったけど・・・。

これから母さんと同じ様に苦しんでいる人と、出会った時に、僕が経験で得た知識が誰かの役に・・・すこしでも立てば・・・僕もすこしは『いる』人間になれるかな?

父親には『いらない』と言われた僕だけど・・・・読んでみるか、この本・・・。


「・・・・・う・・・・母さん・・・・母さん・・・ぅ・・・」


照明の電気をつけて、僕はその本を読んでみた。

でも、とめどなく涙があふれて来た。

悲しみと一緒に、僕は本の内容を頭に刻み込んだ。

そして本を読み終わった時に、泣き疲れて眠ってしまった。


~翌日~


「よっし!ひさびさに買い物に・・・。可憐さんの顔も見たいし・・・」


昨日一人で泣きじゃくり、母さんが居なくなった悲しみがすこしだけ和らいだ。

ちょっとづつ、食欲も戻りつつある。今日は天気もいいし買い物に行こう。

僕は身支度をしてスーパー『フレッシュ★スターズ』に出かけた。


~買い物後~


「よしっと、これだけ買えばしばらくは大丈夫だな!・・・母さんが残してくれたお金もあるし・・・しばらくはダンジョン攻略だけに集中しよう」


僕はいつものマイバッグ(花柄)を持って店の外に出た。

マイバッグには食料品が詰め込まれて、結構重い。主婦の人は大変だなと感じながら歩いて行く。

病気になった母からもらったマイバッグ(花柄)誰に笑われようと、大切に使っていきたい僕の大切な形見だ。

そして今日一番の目的、可憐さんが働く花屋『GARDEN』に向かう。


「・・・今日はいるかな・・・チラッ!・・・チラッ!」


僕はいつも可憐さんがいる店先をチラ見した。


「あれ?今日はおっさん(店長)しかいないな・・・なぜ?・・・今日はシフト上、出勤しているはずなのに・・・?」


おかしいな・・・何かあったのかな?

今度暇を見つけて可憐さんの家に、偵察ドローンを向かわせないと・・・。

僕は頭をかしげながら、家に向かった。

最近は頭のおかしな男達・・・クレイジーガイが増えてるからな・・・危険なストーカーもいるし・・・可憐さんを守ってあげないと・・。

ま、可憐さんの強さなら、ストーカーも返り討ちだろうけど。・・・思い出すと、みぞおちが痛くなる・・・痛気持ちいい・・・いや、懐かしい。


~銀河家~


2050年7月12日(火)か。

さて、食材も冷蔵庫に入れたし、早速ジョブ・ガチャの世界に行くとしよう。

ブレインを頭に装着して、僕は起動ボイスを言った。


『ディープ・イン!』




~カスデ・ムショクナ・モンデ内~


「ベェ!ベェ!ベェ!お帰りなさい!坊ちゃま!」


「ああ、おはよう。バフォちゃん!」


早速いつもの黒いジャージに着替える僕。

今朝体重を測ったら、また痩せてたな。今71キロ。

ちょっぴりお腹周りがスッキリしたな、ゲームの中で動くからリアルの体重も変化したんだろう。

どんな仕組みなのか僕にはわからないけど・・・。


「じゃあ、バフォちゃん早速、レベル上げに向かおう。今日もフィールドで戦闘するぞ~!」


「わかりました!坊ちゃん!ベェ!ベェ!ベェ!」


僕たちは城を出て、いつもの様に歩いてカルマの街へ向かった。




数分後、カルマの街に到着。

外のフィールドを目指して歩いて行く。

商業地区に差し掛かった時、僕の目に人だかりが目に入って来た。

熱狂する男たちが大声で叫んでいる。


「尻!しり!シリ!尻!うおおおお!尻ィィ!」


え?何その掛け声?意味が分からない?

しかしその熱気が僕の体を通り過ぎていく。

吸い込まれるように、僕の足は人だかりの方に進んでいく。


「何が?起こってるんだ?」


僕は男達をかき分けて進んでいく。

中心に近づくほどに、熱気が強まっていく。


「尻!しり!シリ!尻!」


・・・なんて掛け声なんだ?理解できない!

男達の中心に、簡易的な舞台が立てられている。

その周りにカメラクルー、そして中央に司会のサングラスの男が立っている。


「さぁ、ジョブ・ガチャ上半期の最後に現れた、新たな伝説!!!・・・職業を決めるガチャ動画から、人気に火が付き、動画急上昇ランキング~~!ナンバー1!!!さぁ、会場に駆け付けた野郎ども!声を張り上げて、迎えやがれ!

女傭兵団ん~・・・し・・尻ガール!!!」


「尻ガール!尻ガール!!尻ガール!!!」


男達は割れんばかりの声を張り上げている。

尻ガールって・・・ネーミングセンス酷いな!誰が付けたんだろう?

きっと頭のおかしなクレイジーガイだろうな・・。(すいません)

あれ、なんで僕謝ってるんだろ・・・もしかして僕・・・洗脳されてるのかも・・・。


『ドーーーン!!!』


舞台の端から火花が飛び散り、舞台袖から5人の女の子達が現れた。

青・赤・黄・緑・茶の5種類に色分けされた衣装を着ている。

中は水着、外は最低限の鎧を着ていて、髪の毛の色もすべて同じ色でコーディネートしている。

僕と同世代ぐらいの年齢だろう、男達が熱狂するだけの事はある、みんな可愛い。

会場の中央に立つ、サングラスの男が声を張り上げている。


「現在の50の塔、踏破階数はなんとなんと!20階!この短期間に、ものすごい躍進劇、女傭兵団尻ガール!!」


会場中の男達が、壇上の尻ガールに向け雄叫びを上げている。

横に立っていて、僕は正直怖い。

近くに立っている、比較的まともそうな、おっちゃんに僕は声を掛けてみた。


「・・・あ、あの!これって何ですか?」


「ん?!ああ、CMの撮影だよ!俺達はエキストラとしてここに集まってるんだ!俺達が今夢中になっている尻ガール様の、力になれればなと思ってな・・」


おっちゃんはそう言いながら、すこしカッコつけていた。

壇上のカメラクルーが尻ガールのCM撮影を始めた。


「みんな~♪喉が渇いたら・・・・これ!私達尻ガールも毎日飲んでる清涼飲料水『薔薇・尻茶』新発売!絶対買ってね~♪♪今ならなんと!1本200円♪お買い得だね♪

そして大人男性の金づr・・・じゃなくてファンの皆にはさらに、お得なセットのご紹介!!1ケース24本入りでなんと5000円!安~い♪さらにさらに、10ケース買ってくれた、金づr・・・ファンの皆には特別に私達の『恥ずかしいシミ付き、パンT(食パンのTシャツ)』プレゼント♪

皆~♪応募してね~♪10ケースだと6万円だよ~♪お買い得だね~♪さらに100ケース買ってくれた、最高級金づr・・・ファンには私達尻ガール5人から、素敵なプ・レ・ゼ・ン・ト!最高級往復ビンタを食らわせちゃうわ♪お得な100ケースだと消費税込み100万円~♪安い~♪みんな絶対買ってね♪私達の手がみんなのほほを打ちたくてうずうずしてるわ♪うふ♪」


「ぱ、ぱ、ぱ、ぱ・・パンT!?・・・ふぁ?え・・・パンT!?」


尻ガールの女の子が話す内容を聞き、金づr・・ファンの男達が混乱している。

そして一瞬の静寂が訪れた後、ものすごい雄叫びがその場にこだました。

男達は涙を流し嗚咽している、口の横からは唾液がこぼれ落ちている。


「絶対買う!オレ!100ケース押さえなきゃ!こうしちゃいられない、早速注文だ!」


「おい、オレが先だよ!どけよお前!1年分は買わないと・・200ケースぐらいかな・・・サラ金で金借りてでも応援しなきゃ・・・最高級往復ビンタ・・・絶対食らってやるぜ!」


目の前にいた男達が、我先に注文の列に並んでいる。

え・・・?この人達頭おかしいんじゃないの?

買うごとに値段が上がってるし・・・パンTって詐欺じゃん?

清涼飲料水『薔薇・尻茶』の概要の下の方に、食パンのTシャツですって小さく書いてあるし・・・。絶対勘違いしてるし・・。

それに・・・最高級往復ビンタって・・・100万も出して人からぶたれるって・・・・・。

可憐さんに付きまとえば、タダなのに・・・って違うか!


「金づr・・・ファンの皆♪最後に・・『薔薇・尻茶』は限定販売だから・・・気をつけてね♪限定数量たったの、2億ケースだから・・・早い者勝ちよ♪じゃあね!金づr・・ファンの皆♪」


「ま、マジ?たった2億ケースかよ!おい、急げって!押すなよ・・・押すなよ!・・・いや押せよ!」


尻ガールのセンターの赤色の女がそう言うと、金づr・・ファンの男達は急ぎ始めた。

いやいやいやいや、2億ケースだよ?1人100ケース買っても、20万人が買えるんだよ?

なんで急いでんの?人の事言えないけど・・・馬鹿なのかな?この人達?

笑顔を振りまきながら、尻ガール達は舞台袖にはけていった。



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