第25話事情


『必殺!Emotional!burst!!!(感情・爆発)・・・って・・・あれ?夢か・・・』


僕は我が城、カスデ・ムショクナ・モンデのベットの上で目を覚ました。

あれから数回戦闘を重ねたが、HPが少なくなったので、城へと戻った。

すこし眠ってHPも回復したようだ、メニューのHPゲージが満タンに戻っている。

僕はメニュー画面の時間を確認した。


「午後2時か・・・・頃合いだな!」


「おでかけですか?坊ちゃん!では参りましょう!ベェ!ベェ!ベェ!」


僕は目的の商業地区に歩いて向かった。


「ぐ~~!」


ちょっと昼ご飯の時間にしては、遅くなったけど・・・ちょうどいいか。

しばらく歩き、僕とバフォちゃんは目的の店に到着した。

そのまま暖簾をくぐり、店内に入って行く。


「いらっしゃい・・・ってあれ?銀河君・・・久しぶりだね!」


「・・・すいません。・・・せっかく、雇ってもらったのに、何の連絡もしなくて・・・ごめんなさい。・・・僕の母が急に・・それで・・・」


約1週間ぶりにガイが経営する『元気食堂』にやって来た。

1日働いただけだけど、この店で経験した充実した時間が懐かしい。

ガイの面倒見の良さを、感じていた僕。またここで働てみたいけど・・1年間はダンジョンに挑戦したい。

でも、入店した時にガイと目が合ったけど・・・なんか怯えた表情だったな・・・僕の気のせいかな?


「そう・・・大変だったね・・・そうか・・・お母さんが・・・」


「・・・はい、それで・・・・ガイさんには申し訳ないんですが・・・1年間その・・・ダンジョン攻略に挑戦しようと思って・・・それで・・・仕事を・・・」


自分の都合で雇ってもらったり、辞めると切りだしたり・・・・。

仕事を辞めるって上司に切りだすのって・・・結構勇気がいるな・・・。

でも、けじめだし、ちゃんと自分の口で伝えないとな・・・。


「それで、ガイさんには申し訳ないんですが・・・この仕事を辞めたいと思っています。・・・お願いします!」


僕は申し訳ない気持ちを込めて、ガイに深々と頭を下げた。


「・・・や、やめてくれよ!銀河君、頭を上げてくれ!・・・いいよ、何か事情があるんだろ?キミも?・・・・ま、でも今年の魔王様だから・・仕方ないか」


ガイの言葉を聞き、僕は驚いて顔を上げた。

驚く僕の顔をガイが笑顔で迎えてくれる。


「・・・知ってたんですか?ガイさん?」


「当たりまえさ!銀河君、キミは有名人だよ?このカルマの街でキミの事知らない方が少ないんじゃない?なんてったって、今年の魔王様!・・・・象徴だからね!」


ガイは手に持っているタオルで、テーブルを拭き掃除している。


「ぐ~~!」


「・・・あ!・・・あはははは!」


元気食堂に残る、ご飯のよい香り。

鼻孔から刺激を受け、僕の腹の虫が騒ぎ出した。


「はは、もしかして・・ご飯まだなの?」


「は、はい!すいません!」


ガイはテーブルのメニューを僕に差し出した。


「なんでも好きなの言ってごらん!すぐ、作ってあげるから!」


「・・・・すいません。いろいろと・・・・じゃ・・・あの時の賄いを」


ここで働いたあの日に、ガイが賄いで作ってくれたその日の残り物で作ったあの一皿を注文した。

初めて一生懸命に仕事をして、腹を空かせていた僕には飛びっきり美味しく感じた。


「・・?あんなのでいいの?遠慮しなくていいんだよ?」


「いや・・僕はあれがいいんです!」


ガイは少し照れくさそうに微笑んで、厨房に向かって行った。


「あ、バフォちゃんの分・・頼むの忘れてた!」


ストラップに変化したバフォちゃんは僕の腰のループエンドで揺れている。


「いや、いりませんよ?私お腹空かないんで!ゲームのキャラクターですからね・・・ベェ!ベェ!ベェ!お構いなく!・・・いや、待ってください・・・ジンギスカンなら食べれそうです、私♪」


「共食いじゃねーか!心ってもんがないのバフォちゃん?!ねぇ?」


バフォちゃんは僕のリアクションを見て、爆笑している・・・・。なんだ冗談か・・。

その後もとりとめのない事を、バフォちゃんと話続けた。

じゅうじゅうと食材を焼くいい音と、食欲をそそる芳醇な香りが僕の鼻に漂ってくる。

そして調理場の奥から、出来上がったメニューを運んでくるガイ。


「お待たせ!さぁ、召し上がれ!」


「うぁあ、美味しそう!ありがとうございます、ガイさん!」


僕は出されたご飯を、むさぼるように食べた。


「坊ちゃん・・・まるで餓えた野豚みたいですよ!ぶぅ!ぶぅ!ぶぅ!ってね♪あはははは!ベェ!ベェ!ベェ!」



五月蠅いバフォちゃんに僕はデコピンを放った。

バフォちゃんはその衝撃でぐるぐると回っている。


「痛てっ・・・あ~~れ~~・・・」

・・・これで少しは大人しくなったかな・・・さ、ご飯♪ご飯♪

静かになったテーブルで僕は、ガイが作った料理を堪能した。


「・・・・また、戻っておいでよ!銀河君、キミには料理の才能があるよ!僕が保証するよ!」


「・・・そんな・・・僕には何の才能もないんです・・・残念ながら・・・」


ガイは僕の席と、正面の席にお茶を1つづつ置いた。

そして僕が座る正面の席に、腰を下ろした。


「ねぇ、銀河君?『和』って漢字知ってるでしょ?」


「・・・?・・・ええ、知ってますよ?昭和の和ですね?」


ガイはお茶を飲みながら、僕に語り始めた。


「和って漢字の、左側はのぎへん(禾)って書くでしょ?穀物なんかを意味してるんだ。それに口で和!つまり・・みんなと一緒にご飯を食べると、みんなに輪(和)ができるって事だよ!それだけ家族や人間にとって食事は大切ってことだよ!

正月やお盆に実家に帰って、親戚達と食事を共にする。最初はめんどくさく感じる事だけど、やっぱり皆と一緒に食べると美味しく感じるよね。独りで食べる食事は侘しいものだよ」


「はぁ・・・」


ガイが言っている意味を僕は噛みしめた。


「・・・銀河君、キミと一緒に働いていた時、忙しい時も君の表情はにこやかに見えたんだ。この子は食事の大切さを知ってる子だなって!そう感じたんだ」


「・・・ありがとうございます、ガイさん」


僕は嬉しくて泣きそうだった。

そんな言葉を掛けてもらえたのは、生まれて初めての事だった。

僕は素直にガイの言葉を胸にしまった。

ガイは壁の方を見ながら、すこし考えた後また話始めた。


「・・・でも、最近のこの国じゃ仕事、仕事で・・・忙しい人が増えているよね。時間がないから、一人で簡単にって・・・人一倍、仕事を頑張っているのに、そんな人達こそ美味しい食事が必要だと、僕は思うんだよ・・。

・・協力する心を、グローバルなRの一族たちが、巧みに破壊しているんだろうな・・・この場合。だから、貧乏で独身な人たちが・・・誰にも助けを求められなくなっていって・・・。・・・あ、ごめん、何か話が脱線したね・・。とにかく、銀河君!キミが作る料理は誰かを癒すって事だよ!自信を持ちなよ!キミに足りないのは自身だけさ!才能なんか関係ないよ!」


「はぁ、ありがとうございます。そんな事言ってもらえたの・・・初めてで・・・」


僕は嬉しくて鼻を掻いた。

Rの一族か?ちょっと難しい事も言ってたけど、今度調べてみよう。

誰かの話を鵜呑みにするのは危険だから、自分でも考える癖を付けないと。

僕の食事が終わると、ガイは食器を持って厨房に向かった。

その時、一人の女性が外の食器を受け取った。ガイの女性を見る目は今までで一番優しかった。


「美味しかったです!お代を・・・」


「いや、いいんだよ!旅立つ魔王様に・・・僕からのささやかな餞別がわりだよ!」


ガイは僕に笑顔で答えた。


「あ、ありがとうございます。・・・・じゃ・・お言葉に甘えて・・・ごちそうさまです!・・・・ところで・・・さっきの人は奥さんですか?」


「・・・!ああ・・・・いや・・・彼女は・・・」


僕の問いにガイは言葉を詰まらせた。

その時腰のバフォちゃんが僕にしゃべりかけて来た。


「とりあえず・・・話題を逸らしてください!坊ちゃん!」


「え?」


僕は訳が分からなかったが、バフォちゃんが言うとおりに笑って誤魔化した。

ガイもそれ以上はその話はしなかった。


「・・・あ、それじゃ!僕はこれで!ガイさん・・・また、食事に来ますから!今度はちゃんとお客さんとして対応してくださいね!」


「ああ、ダンジョン攻略頑張って!くれぐれも死なないようにね!」


僕はガイに手を振って店の入り口まで足を進めた。

その時呼び止めるように、僕の背後からガイが話掛けて来た。

僕はガイの方を振り向いた。


「あ、銀河君!この世界には本当に邪まな・・邪悪な人間か存在する・・・くれぐれも気を付けてね!」


「わ、わかりました!ガイさん!また!」


その時の僕には、ガイが言った事の本当の意味を分かっていなかった。

僕とバフォちゃんは『元気食堂』の外に出た。

その時、バフォちゃんが僕に言い聞かせるように話し出した。


「いいですか?坊ちゃん、さっきガイって人が話してた女の人はゲームのキャラクターですよ?頭にマイチップが無かったでしょ?・・・ゲームのキャラクターと良い仲になるプレイヤーは、一定数居ますので次からはそんなデリカシーの無い事は言わないように!いいですか?!わかりましたか?」


「え?いいじゃん!ゲームのキャラクターとカップルになるって事でしょ?駄目なの?」


僕は感じたままに、バフォちゃんに問いかけた。


「年代が若い人達は一定の理解がありますけど・・・今の年配の人達からすると『現実逃避』と思われるでしょうね!ベェ!ベェ!ベェ!そんな事が分かると白い目や差別の対象になってしますそうです!ま、知られなきゃいいだけですので!誰にも言わないであげてください!」


「・・・わ、わかった」


そんなもんなのかな?

リアルが満たされない人たちが、趣味やゲームに没頭してもいいと思うけど。

その結果ゲームのキャラクターと結婚しても・・・いいんじゃないの?その人が幸せなら・・。

駄目なのかな?僕にはわからない。

あれ?なんだか力が・・・・・。


「うぉおおおおお!みなぎる!!!!あけましておめでとう!」


「・・・・突然叫ばないでください!しかもこんな大通りで!ストラップでも恥ずかしいですよ!坊ちゃん、早くどっか行きましょう!ベェ!ベェ!ベェ!しかも今7月なのに・・・・何が開けましておめでとうですか?頭にウジが湧いてるんじゃないですか!」


人の目から逃れるように、僕はフィールドへ全速力でダッシュした。

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