冥府に落ちる高校生

綾川知也

Chaos Club Is Differnt

 それは放課後の教室で起こった出来事だった。


 運動部所属のイケメン夕凪ゆうなぎ春彦はるひこ

 人気があって彼の周りには女子が賑わっている。


 誰も居ないはずの教室だった。夕焼け色に染まった教室はまだ暖かい。

綺麗な髪型だねHair you have nice

 そんな言葉を口にする。


 春彦は悩みがある。それは想っている女子には本心を告げれないこと。

 だから、練習をしていた。

 男子高校生は何時だって頑張っている。


 しかし、予想外のハプニングが発生する。春彦に声がかけられた。

大丈夫Are you OK?」


 声をかけたのは、黒田くろだ星子せいこ

 これまでの彼女はアニメ好きで、男性には免疫はなかったものだ。

 だが、文化祭で仕事を変わってもらったこともあり、最近は話をするようになってきている。


 そして、春彦は驚いた。

 人が居ないと思っていたのに、突然声をかけられたら誰だって驚く。

 春彦だって驚いた。

 いいだろう。そこには何も問題はない。

 しかし、問題が発生したのはその後だ ——


「好きです!」

 春彦が告白用に取っておいた言葉。

 それが思わず飛び出した。

 傾いた日の光が横目に入ってきて眩しい。

 夕焼け色に染まっていた黒子の白い頬は秒刻みであかくなる。三秒後には真っ赤。

 もはや、黒子は赤子になったと言ってもいい程。


 そこに登場したのが綾川あやかわ知子ともこ

 勝手気ままな腕白ガール。顔もスタイルも、見た目だけはいいのだが、何かと問題行動を繰り返す問題児。


「マジかよ」

 知子は言葉を漏らす。

 驚きが隠せないのか教室の扉に片手を付いている。口は驚きで空いていた。


「ち、違う!」

 春引きは言いつくろおうとするが、黒子が知子の所に駆けてゆき、ギュッとしがみつく。

 知子と黒子は二人で一組。

 元々アニメ好きが高じて、メカニックに詳しくなってしまった黒子は、知子のバイクカワサキのメンテナンスを一手に引き受けている。


「おい! 春彦! 黒子のことを大切にしてやれよ!」

 柳眉を逆立て、知子は春彦を指さした。

 片手は黒子の背に置かれている。

 黒子はというと知子の胸に隠れようとしているかのように身を寄せていた。


「黒子。そろそろ帰るぞ」

「……うん」

 消え入りそうな黒子の声。

 余りの展開に春彦も消え入りたいと考えた。


 コクりと下を向いてうなずく黒子の手を引く知子。

 彼女は再び春彦を睨み、言い捨てた。

「黒子を泣かせたりすんなよ! 絶対だぞ!」


 そして、二人は退場する。去り際にこんな台詞を置いていった。

「かあああああ、バイクカワサキで登校して呼び出しくらうとは思ってもなかったぜ」

何も助けれなくてゴメンねSorry for not helping you

「ところで交換部品はあったか?」

「あったよ。五つ」


 知子はバイクカワサキに乗って登校してきて、呼び出しを食らっていたようだ。

 そして、黒子がバイクのメンテナンスの為に交換部品を取りに来たらしい。


 春彦がそれを理解できたのは、教室が夜に染まってから。

 闇夜は雲一つなく瞬く星は綺麗だったが、春彦の心は暗雲に包まれていた。


 春彦は星々に顔を向け、銀河鉄道に乗りたいと思ったが、時間は無情に過ぎてゆく。


 


 時は夕方。

 時間は春彦が銀河鉄道に乗りたいと言い出す前に戻る。


 学校校舎の影が駐輪場に落ちている。ライムグリーンの車体が夕焼けに染まっていた。

「な、言った通りだっただろ? 上手くいくってさ」

 知子の言葉に黒子は嬉しそうに微笑んで見せた。


「自分でもビックリだよ」

 春彦が気付いたかどうかは知らないが、黒子のヘアバンドは新しく、夕焼け空を映して輝いていた。


「春彦は気付いてるかどうかわらかねえけど、時々、ああなるんだよな。男って本当に視界が狭いんだよな」

「知子、上手く橋渡ししてくれて、ありがとうね」


 健気に笑って見せる黒子に、知子は白い歯を見せて答えた。


「まあな。大体あいつが誰狙いなのか、こっちは知ってるつうの。お陰でいい迷惑だ」

「おかげで知子が他の女子に嫌われたもんね」


 バイクに跨がる知子。そして、黒子にヘルメットを渡す。黒いヘルメットに地獄王ハデスと書かれている。

 黒子はこういうのが苦手。だけど友人である知子には言えない。

 実際、黒子が春彦が好きと打ち明けるのも勇気がいったものだった。


「あっ、そう言や、この前送った動画って観たか?」

「未だ観てないや。確か耳が聞こえない女の子が恋した話なんだよね?」

「アニメでも何でもいいけどよ、そういうのも観ておけって」


 黒子は観るつもりはないが、概要だけは訊いておくことにする。

 日が落ちてしまうと、知子の表情は見えなくなってしまう。

 東側の空は群青色になり、西側の空を挟んで見事なグラデーションを作っていた。


「その動画ってどんな内容なの?」

「はっ、簡単な話だよ。見た目や上辺だけで人を判断するなってことさ」

「ふうん」


 ヘルメットを被りながら、何と応えたものかと迷っている内に知子はスロットルを開く。

 彼女はいつだってお構いなし。


「今日こそ光速を超える!」


<Ending Movie>

 知子が星子に送った動画

 https://www.youtube.com/watch?v=yu24PZIbkoY

</Ending Movie>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冥府に落ちる高校生 綾川知也 @eed

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ