肯定・否定について断言するのをためらう感情

 はい・いいえをハッキリ言いたくない感情を表現するための技法。


1. 否定文で表現する(緩徐)。(p394)

 例えば「嫌いじゃないわ!」とキャラが言う場合、間接的に好きだと伝えている、という解釈が常識的だろう。しかし実は無関心であるとか、相手に利用価値があると思っているだけ、という可能性もある。このように作者すら思いつかないようなニュアンスが読者の中で勝手に生まれる危険性がある。よって曖昧さそのものを表現したい場合以外は慎重に使うこと。上記の例であれば、好き・嫌いの判断はその時点では重要ではなく、ハッキリ言いたくないから聞かないで、という感情を表現したいときに使うべきである。


 「将軍はただ一言、言った。『撤退するな』」この例は様々なニュアンスを喚起する。もう少しで勝利だからとか、たとえ全滅しても死守しろとか、軍が混乱しているから立て直すために辛抱しろとか、俺が逃げるまで持たせろ、など。緩徐を使うと、作者にはこれらの中からただ一つに収束するように描写を積み重ねる責任が発生する。「将軍は言った。『撤退するな、徹底抗戦だ』」とすぐに直接的な表現で言い直してしまえば回避できるが、これはもはや徐なのか、筆者には判断が付かない。


 「好きじゃないって訳じゃないの……」みたいな二重否定も緩徐と同様だ。いくらでも否定文をつなげて意味をひっくり返すことができる。「嫌いじゃないなんて思っていないなんて、あるわけないんだからね!」こういうのはもはや、煙に巻きたいだけだろう。

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