第9話 十一年の欠落――青菊の回想

 人気の映画監督でかっこいいパパ。

 美人でお芝居もいつも誉められてる俳優のママ。

 お姉ちゃんは、ママによく似てすごく綺麗だし、二人に似てお芝居が大好き。


 でも私は、誰にも似ていない。

 私は美人じゃないし、パパのお仕事も良く分からない、ただとてもきれいだと思うだけ。

 お姉ちゃんと違って、人前に出るのも苦手だし、上手にお喋りすることも出来ない。お芝居なんて到底無理。

 私は、まるで誰にも似ていない。


 だからきっと、本当は、私はうちの子ではない。


 来客のたびに、テレビや雑誌で両親を見掛けるたびに、お姉ちゃんの芸能活動の話を聞くたびに、思った。綺麗でかっこよくて、特別な力があってきらきらした、誰もが憧れるような人たち。

 私は何でこの家にいられるんだろう。何にも持っていない子供なのに。

 私はいつまでこの家にいられるんだろう。

 いつか、お前は要らない子だ、元々うちの子じゃないのだから、何にもできないのだから、と言われたらどうしよう。


 十一歳だった。

 誕生日の直前で、小学校の最後の学年だった。

 何かが終わっていく気がした。

 中学校に行ける気がしなかった。


 お姉ちゃんは、芸能活動のために芸能科のある名門の私立中学に入って、そのままエスカレータで高校に進学していた。私はもちろんそんなところには行かない。

 私には何もないのだから。


 あるのはただ、漠然とした不安。

 漠然とした絶望。


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