一話完結 野良犬のモップと紫ババ

パクスヤナ

モップが幸せになる場所

小学生の時。

学校からの帰り道、決まった場所に野良犬がいたんだ。もう見るからに汚くて雑種。ってか動く使用済のモップだった。 いつも近くを通るとシッポを振って笑うんだ。


僕は高学年になったくらいからイジメられるんだけど、顔を腫らしてそいつと会うとそいつも悲しい顔するんだ。いつも路地裏をウロウロしてたし…なんか親近感湧いて。家に連れて帰ってペットにしようって頼んだら

案の定断られた。


モップならダスキン使ってるって。

犬です。


で、路地裏に返したんだけど、下校で絶対会うんだ。だから給食をわざと残してこっそりあげてちょっと飼い主気分だった。


名前も付けた。


モップ。


向こうもきっと同じ気持ちでいてくれてるだろうけどなんせ飼う家がない。そんな時、路地裏の家の髪が紫のおばちゃんが教えてくれたんだ。


クラスではいぢわるで有名な紫ババ。


「そんなにその犬が好きなら保健所ってとこに連れてきな。きっと楽に住むだろうから。」


野良犬専用のそんな施設があるんだ。すげー。と、子供心に思った。でもその時の住むは「住」じゃなくて「済」だったんだ。



ほんと世間知らずだった。


貰い手がないまま一定期間が過ぎれば安楽死。そんな施設へ僕はモップを連れて施設のコワモテのおじさんに預けた。なんとも言えない臭いが服に染み付いたみたいで帰ってすぐにお風呂に入った。


これからは毎日会えないけどモップは幸福になる。


これでよかったんだと思った。


クラブや遠足が重なってなかなか会いに行けなかって2週間くらいしてから久しぶりに時間を見付けて保健所へ向かった。自転車をずっと立ちこぎで顔はたぶん半笑いだった。


6年の夏休みで蝉がやたらうるさかった。


着いた。


コワモテのおじさんから保健所がどういう場所か聞いた。



泣いた。



泣いて僕も殺してくれって頼んだ。


僕がモップを殺したんだ。



あんな犬引き取り手があるわけないじゃないか。


汚くて吠えるし臭いし。


すぐになんか通じるし犬のくせして僕の傷に気を遣うし。





それからモップがいた路地裏は通った記憶がない。








先日、28才の誕生日を迎えた時久しぶりに同級生に会った。


居酒屋で当時は黄色いコーラって言ってたやつを呑みながら


路地裏のモップの話をしたんだ。アルコールが入ってたから気分も高ぶって話の最後に差し掛かる頃には僕は泣きじゃくってた。


ふと同級生を見たら一緒になって顔をグシャグシャにしながら鞄をゴソゴソしている。


ごめんごめん、言えなくて…って写真を取り出した。そこにはモップと同級生の家族の写真が。



状況がよくわからなくてしばらく写真を食い入るように見てると同級生は僕が路地裏で仲良くしてる犬がどうしても欲しくて


保健所に預けた日に引き取って飼いはじめたんだって。


泣きながら謝りながら盗ったみたいで言えなかったと言い切るまえに「モップ~よかったなぁ」って連呼してた。


少し前に老衰で死んじゃったんだって。


よかったな。





ほんとよかったなモップ。

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