二十五話 いや、どう見ても違うだろ

「本当に、ここの住民はデカイな」


 生活感のある様相でひしめく古代のドラゴン族や精霊、さらには絶滅したはずのタイタンを凝視する一際小さな女の子。

 キョロキョロと田舎者のように歩くリーシェッドの手を引いて歩くコルカドールは、この狭間の説明をしながら中央の城を目指した。


「…ってことさ。リーシェッド聞いてる?」

「え、なんか言ったか?」

「周りが気になるんだね。なら僕の話も面白いと思うんだけどなぁ」

「もっかい」

「はいはい」


 改めて同じ話を繰り返す。


「この国はフェニックスのシロイトが収めていてね。あの霧に隠された祭壇に大量の魔力を注ぎ込むと入る事が出来るんだ」

「ほう、並の者では探すのも一苦労なのだな。どうやって辿り着くのだ?」

「目印としては『気配』かな。誰もいない濃霧の中で魔物の気配がしなかった?」

「したようしてないような」

「それを感じられる所が祭壇の近くってわけ。まぁ、僕達魔王クラスの魔力がなければ霧は払えないし祭壇も起動しない。魔界でもここに来られるのは僕達くらいだろうね。それも、知ってないと気付きようもない話しさ」

「ふむ」


 リーシェッドの視線がどんどん逸れていく。


「フェニックスは君たちアンデットとは違って先天的な不死の力を持っていてね。大昔からいる分やっぱりそれなりの強さがあるんだ。魔王と近い力を持って、それでいてこんな所に隠れているんだから戦いが嫌いなのは言うまでもないね」

「ふむ」

「ここにいる多種族はみんな同じさ。戦いたくない。傷つきたくないからフェニックスに従って隠してもらってるんだ。まぁ友好的な彼らだけど、力のある無しに関わらず集まっているから変に喧嘩はしないでね。中には厄介な能力を持っている魔物もいるわけで」

「ふむ」

「ねぇ、聞いてないでしょ」

「ふむ…………え?」


 リーシェッドが全く別の方向に足を向けて、ようやくコルカドールがツッコんだ。ネクロマンサーは言うなれば死霊学士。学士の血は一度興味を抱いてしまうと調べずにはいられないのであった。

 諦めたコルカドールがリーシェッドの手を離すと、彼女はひょこひょこと色んな魔物に声を掛けては知識欲を満たしていく。ドラゴン種はラフィアかスフィアしか見た事がなかったせいか執拗に色んな種類を捕まえては触りたくり、付きまとう余り逃げられてしまう始末。そんな状況が何度も繰り返されるうち、だんだんと快く話を聞いてくれる者達が集まってきて大通りはちょっとした集会を開いているような混雑を生み出していた。


「ほらもういいよね。行くよ」

「ふむぅ」

「そんな目をしてもダメだよ。道がつっかえて困る人もいるんだから 」


 目を大きく見開いて猫のように黒目をきゅるっとさせる彼女を無理矢理担ぎ上げたコルカドールは、背の高い民家の屋根を飛び越えて外れに退散する。残ったラフィアは魔物が多すぎて羽が広げられず、諦めて歩いて城を目指した。


 どうにか城までやってきた二人は、ペティ・ジョーを連れていたお陰でアポ無しで城内に入る事が許された。幸い他の謁見者はそう頻繁に来ないらしく、応接間で少し待機するだけで王に会えると伝えられる。もちろん、客の代表者はペティ・ジョーなのでリーシェッドとコルカドールはその連れという扱いだ。


「ペティ・ジョーがいなかったら簡単には入れなかったな。ガルーダはここまで読んでいたのか?」

「だろうね。大昔にここへ来た時はミッドフォールとガルーダと僕だけだったけど、僕は別の所にいたから王と面識もないもん。ここに来たがってたのはガルーダも知ってたから代わりを立てたのかも」

「その三人って事は、まだ仲間集めをする前の話か。ジジイどもの浮浪者時代だな」

「ジジイはやめてよ……」


 年齢が倍以上も離れていることもあって、リーシェッドはたまに老人扱いをする。これがコルカドールにとってそこそこ大きなダメージになるのであった。

 そんな二人が応接間の古めかしい装飾を眺めて歩いていると、どこからが重く低い声が響き渡った。


「触ってもいいけど、壊さないでくれよ?」


 声に振り返ると、僅かに開かれた扉からヨチヨチと歩いてくるずんぐりむっくりな生き物が現れる。羽根らしきものはあるのに毛皮に覆われており飛ぶのに適していない。クチバシも小さく目もつぶらなそれは、野生の生存競争を生き抜く気がそもそもなさそうな魔物だった。

 リーシェッドは目を細め、頭の中のデータベースから類似している生物を探る。そして、数多く読んだ人間の流れ書籍に行き着く。


「ペンギン?」


 なぜこんな所にペンギンがいるのか。リーシェッドはわけも分からず持ち上げて目を合わせる。


「ほぅ、実物はこんなに小さいのか。人間の世界から迷い込んできたのか?」

「初対面で抱き上げるのは流石に無礼じゃないかな。噂の不死王よ」

「うぉ、喋ったぞ! 向こうの生き物は喋らないと聞くが、なかなか賢い子だなぁ」

「話を聞かないか。それに、あまり触れ続けるのはオススメしない」


 ペンギンが器用に体を捻って飛び降りる頃には、リーシェッドの手は完全に凍りついていた。それは滅多にお目にかかれない水魔法の派生、氷の属性魔法であった。


「手が凍ってしまった。まぁそのうち溶けるだろうな。そうだペンギンくんはここのペットか何かだろう? フェニックスを呼んできてくれないか?」

「その必要はない」

「いいじゃないか。余程忙しいのかなかなか来んのだ。一度出直した方がいいか……」

「ナニアソンデンダリーシェッド!」


 リーシェッドの影から姿を見せたペティ・ジョーは、彼女の肩に座ってペンギンを指差す。


「コイツガァダゼ!」

「あぁ、初めまして外の王達よ」


 渋い声で挨拶するマスコットのような生物を前に、リーシェッドは何度もペティ・ジョーとシロイトを交互に見る。

 そして、心からの強い思いを乗せて口を開く。


「…………はぁ?」

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