第34話 作戦
いや、思考停止してる場合じゃない。考えろ神崎優。久しぶりってだけで、危機的状況なら今まで何度も乗り越えてきたじゃないか。
「敵は頑丈で攻撃が通らない……だけど何も、あのダンゴ虫を直接、攻撃する必要は無いんだ」
俺は深呼吸して、
「いくぜ、本日二回目……"
手持ちの技の中で二番目に威力の高い矢を、俺は目の前の地面に向かって放つ。
赤い光がゼロ距離で炸裂した。
俺の足元まで地面が陥没し、クレーターが出来た。
クレーターに突っ込んだ
「よっしゃ!」
狙い通りだ。
俺は、クレーターに頭を突っ込んでいる
踏みつぶされるのを待つ必要はない。
敵の装甲の上は、安全な場所だ。
勢いよく装甲に着地する。
火炎の名前の通り、足元の悪魔の装甲は、激しく炎がくすぶっている。
しかし俺には関係なかった。
オーラのような、この力は、俺の全ての技の原型だ。種を明かせば、
勿論、初めから魔法の矢のような事ができた訳じゃない。
最初の頃は普通の物理的な矢を使っていたのだが、
「"
足元の悪魔の装甲めがけて、連続で同じ場所を狙って矢を打ち込む。
雨だれ石をうがつ、なんとやら。
何回もやれば穴が空くだろう。
俺を振り落とそうと、
矢を浴びせた装甲の一部が凹んでいく。
もう少しだ。
しかし、唐突に手応えは消え、俺は空中を落下することになった。
「わっ」
俺は穴の中に着地して周辺を見回す。
「危ないと思って転移で逃げた……?」
辺りの地面は焼き焦げ、独特の臭気が漂っている。
跳躍して自分の作ったクレーターから脱出すると、目の前の半壊した道路に、ちょうどイズモの支援車両が止まったところだった。
博孝が車両のドアを開けて身を乗り出している。
「逃げなかったのか?」
「途中で引き返してきたんですよ! とにかく乗ってください!」
俺は武器を亜空間に収納すると、支援車両に駆け寄って、車内に乗り込んだ。
車の中には、さっき
運転席の竹中がアクセルを踏み込み、車両は急発進する。
「神崎さん、
みつるがノートパソコンから目を離さずに言った。
五十キロということは、数回、転移を繰り返せばイズモに入ってしまうということだ。
博孝たちも、その可能性に気付いたのか、青くなっている。
『……諸君、聞こえるかね?』
車内に備え付けられた一番大きなモニターに、映像が表示された。
映像の中央には制服を着た男が静かに座っている。
『こちらは本部の夏見だ』
「司令!」
にわかにテレビ会議が始まる。
画面の端に小さく、他の支援車両に乗っている遠征チームの面々がライブカメラで映し出されていた。おそらく他の車両では、俺たちも同じように画面の端に映っているのだろう。
『先ほど報告は受け取った』
夏見は両手を杖の上に重ねて、冷静な表情で言った。
『当初、
『そこで、念のために準備していた作戦βに移行する……みつるくん、敵の転移位置は予測できたかね?』
お得意の台詞「念のため」が夏見の口から飛び出す。
みつるは手元のノートパソコンのキーボードを凄まじい速度でタイプした。
「はい、夏見司令。
画面に地図が映し出された。
イズモに向かって、赤い点がいくつも散らばっている。
「途中の通過ポイントを絞りこむには情報が足りません。イズモ直前なら、出現位置は確定するのですが」
『ならば確定できるイズモ直前のポイントで戦闘を開始する。そこが同時に防衛ラインになるだろう。もう、後には引けない』
夏見の言葉に、遠征チームの面々から溜め息が漏れた。
あの巨大な
最悪の想像が今、現実になろうとしている。
『
斎藤って、保健室の斎藤先生だろうか。
しかし抗生物質を
「装甲が頑丈過ぎる。また爆薬を仕掛けて腹を狙うのか」
俺は腕組みして呟いた。
みつるも浮かない顔をして言った。
「
敵がポンポン転移しないことを祈るばかりだ。
「装甲は頑丈……いや!」
何か考え込んでいた博孝が、不意に顔を上げた。
「口だ!
「あ!」
花梨が今気付いたように目を見開く。
そうか。彼女を捕まえて飲み込もうとした時、
『何か餌でも置いて、口を開かせれば良さそうだな。そして、遠距離からピンポイントで奴の口を狙う必要がある……神崎、狙撃を頼めるか』
夏見は画面の向こうから、こちらを真っ直ぐに見る。
「任せてくれ」
俺は気安く請け負う。
吸血娘や特効馬鹿のお守りよりかは、断然、俺向きの仕事だ。
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