第19話 目的
悪魔に憑依された人たちを倒し、床に転がった彼らを置いて俺たちは先を進んだ。
命があることは確認しているがそれ以上はどうしようもない。
一人ずつ丁寧に介抱している時間は無かった。
待ち伏せは二十階に集中していたようだ。
二十一階に人影はなく、俺たちは無事、二十二階の指令室に辿り着いた。
「夏見司令!」
駆け込む博孝の後に続いて俺と
中の人々は先頭の博孝を見てほっとしたようだ。
「無事だったか、北条君。君なら真っ先に駆けつけてくると思っていたよ」
車椅子に座ってモニターを見ていた夏見が、振り返って微笑する。
「今、クラウドタワーの通信機器を復旧させたところだ。第二発電所からの電力供給は、悪魔の襲撃で職員が避難した関係上、進んでいない……」
正面モニターに、クラウドタワーの全体像が映し出される。
このタワーは六十階建てらしい。
二十階から上は軍事施設やミーティングルームになっているようだ。
「とにかく、憑依型悪魔をばらまいている屋上の悪魔を倒さないことには、どうにもならない」
「司令、俺が行きます!」
「うむ。二十二階から、五十五階の火器管制室への直通エレベータがある。五十五階に着いたら、火器管制室のシステムを再起動して欲しい。屋上に悪魔が現れた影響で、対空砲撃プログラムがエラーになって停止しているのだ」
エレベータが使えると聞いて、俺は安心した。
二十階も階段を登るのは大変なのだ。
それにしても博孝のチームのオペレーター、みつるによれば、対空設備は発電所からの電力供給が必要ということだが。
「対空砲撃……こんな電気が落ちて真っ暗な状況で使えるのかよ」
「念のためだ。それにしても神崎、お前がここまで来てくれると思わなかった。第二発電所に残るかもしれないと推測していたよ」
夏見は俺を見て、少し心配そうにした。
「大丈夫か、神崎。そろそろ時間切れでは……」
「平気だ」
俺は夏見の言いたいことを分かっていて、わざと踏み込ませなかった。
「せっかくここまで来たんだ。屋上の悪魔を片付けるのを手伝うさ」
「そうか……」
何か言いたそうな表情で、しかしそれ以上は何も言わずに夏見は頷く。
「人手をそろえて行かせたいところだが、憑依型の悪魔に対抗できる手段が乏しい。北条君はESP"
結局、俺と博孝の二人だけで特攻するしかないらしい。
屋上のボス悪魔を倒せなくても、軽く戦って情報収集するだけで意義がある。とりあえず様子を見に行ってくれ、と夏見は俺たちに指示を出した。
「大口を叩いておいて、帰って来なかったら許しませんから」
「死にかけてた癖に元気だな、あんた」
俺は希の激励に軽口を叩き返す。
軽く打ち合わせをした後、俺と博孝は足早に指令室を出た。
「私も行く!」
ハルが小走りで追いかけてくる。
「足手まといにはならない!」
「へえ」
俺はハルを振り返って視線を合わせた。
「君は何のために戦ってるんだ?」
突然の問いかけに、動揺したようにハルの赤い瞳が見開かれた。
後ろで博孝が「ちょっと神崎さん」と眉をしかめているが、俺は黙って返事を待つ。
成り行きでも一緒に戦うことになるのであれば、仲間の目的は知っておいた方がいい。その答えによって信頼できるか否か、分かるからだ。生死をかけた戦いにおいて、何のために戦うか、その目的を共有することは、生き残る上でとても重要なことだった。
「……生き延びるためだ」
ハルは迷っているようだった。
「今は……生き延びるために、こうすべきだと思っている」
「分かった」
俺は頷いた。
「一緒に行こう」
試すようなことを言って、あっさり受け入れた俺を、ハルは疑問に思ったようだ。
「いいのか?」
と聞いてくる。
「戦う理由なんて、人それぞれさ。博孝なんてきっと、幼馴染の女の子を守るためだぜ」
「神崎さん!!」
当てずっぽうで言ったことは当たりだったらしい。
博孝が真っ赤になって声を上げる。
正直、ハルの答えが何でも構わなかった。
進む道に悩んでいるんだなと分かれば十分だ。生き延びるために、迷い悩むのは、人間である
「早く五十五階に上がろうぜ」
俺たちは通路の奥にあるエレベータに乗って、一気に五十五階を目指した。
階段を登っていた時は一階上がるのも大変だったのだが、専用エレベータはあっという間にするすると五十五階まで登っていく。
数分のうちに俺たちは火器管制室の前に辿り着いていた。
「ハル、悪魔が来ないか見張っておいてくれないか」
「了解」
部屋の前で女の子を立たせておくのは気が引けるが、彼女は機械の操作が苦手そうなので仕方ない。
俺と博孝は火器管制室に入って、コンソールを確認し始めた。
「博孝」
「何ですか?」
マニュアルを見ながらコマンドを入力している博孝に、俺は声を掛ける。
ここから上に登ればおそらくボス戦に突入する。
今のうちに言っておかなければいけない。
「北条博孝。いざとなれば、お前のその
「えっ?!」
博孝は仰天して、紙面から顔を上げる。
そして、まじまじと俺を見た。
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