第4部 「摩天楼の決戦編」

21話




『試合開始!!』



ビーーーーーーーーーーッ



三回戦が開始された。 東ゲートから登場した桐生は、西ゲートから出てきた相手を見て驚愕していた。驚きのあまり言葉が喉に引っかかって掘り起こせない。いや、この場にいる全員が同じような感じだった。


「まさか、こんなのとも戦わなきゃなんねえのか・・?」


敵の特徴を挙げよう。まず一つは、人間ではないこと。もう一つは人間の言葉を喋れるということ。そして最後に全身が灰色で、サイズが直径十cmくらいだということだ。


相手の名前は「石ころ」。その名の通り、みんなにも馴染みがあるだろう石ころである。小学生が通学路でよく蹴って転がして遊んでるようなアレだ。



『第三試合のカードはなかなか面白いことになりましたねー』


『そうですねー。相手の動きを封じる少年と、喋るただの"石ころ"。どんな戦いを見せてくれるのか見ものですよこりゃ。』



石ころはその場を動かない。いや、動くはずがないのだが。ただ口だけは動かせるようだ。


「おい、テメエ!!この石ころさまが相手をしてやるってのになんだよその可哀想なものを見るような視線は!!」


「いやあ、そう言われましてもなあ・・。なんつっても"石ころ"だもんなー。」


(コレどうやって今まで勝ち上がってきたんだろう?試合なんか成り立つのか?)


桐生のそんな疑問は石ころの次の言葉によって解消された。


「オレッちの戦法。それは敵に降伏を促す事だ!!」


「はい?」


「敵が降伏するまでじっと待つんだよ。」


「はい?」


「いやいやいや、だってオレッち、"石ころ"だろ?この現代社会でただ道端に落ちとる石ころに常に気を配りながら生きている寂しい人間なんているか?ん?」


なにが『いやいやいや』、だ。こいつ自分にプライドはないのか?この場で戦うことに戦士(笑)としての誇りはあるのか?


桐生はそんなことを考えてると石ころは言う。


「でもな。 寂しいのはオレッち達なんだよ。なにせ誰にも相手にされないんだぜ?オレっち達の存在を知らぬものはいないのにも関わらず・・だ。」


「お前・・」


「オレっちがここで戦う理由は、賞金や賞品が欲しいからじゃない。ましてや、戦士としての誇りやプライドを守りたいからでもない。 多くの人間に"認められたい"んだよ!たった一人、オレっちが喋る石ころとして生まれたのは、この皇楼祭で優勝して、多くの人間に石ころの存在を認識してもらう為の宿命(さだめ)だったんだ!!」



桐生はこの石ころの叫びを聞いて、ふと。かつての宿敵のある言葉を思い出した。


"誰にも認められない人生なんて退屈だよね"


この一言はあの時奴がただ生半可な気持ちでなんとなく放ったものだろう。 だけど今ここにきて、石ころの気持ちが一瞬でもわかってしまった自分がいた。


「退屈、か。」


桐生は今までずっと自分のことを平凡だの特徴がないだのつまらない人間だのと評価してきた。 でも実際どうだろう。そんな人間にだって心がある。プライドがある。絶対に守りたい大切な人がいる。それだけですでに幸せだったのだ。


しかし、目の前の石ころはどうだろう。 そこら中にありふれた物なのにも関わらず、それを知らないものはいないはずなのに、それでも人間は興味を持たない。認識すらしてくれない。

いかに自分が人間であることが幸せなことか、他人に受け入れられることが嬉しい物なのかを実感した。


実は桐生には普通の人間とは違う悲しい過去があった。これは桐生が幼稚園時代の出来事である。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

当時、街に引っ越したばかりの桐生は近所のとある公園の砂場で一人寂しく山を作っていた。

当然こちらに移ったばかりだからか友達もまだ出来ていない。 しかし一人寂しくとは言っても当時の桐生にとって山を作ることは最高の至福でもあった。

なんだろう。何もなかった平らな砂場に手間暇かけて一生懸命砂をかき集めて自分だけの牙城を建てる。その快感ったらたまらなかった。今思えば単なる自己満足だったんだろうが。

そんな幼い桐生の前に現れたのは、公園でも有名な小学生のいじめっ子グループ三人組だった。 しかも見た所上級生だった。


「へへっ、よおチビ。なんだよこのだっせえ山は!!」


そう言い、いじめっ子の一人は桐生がやっとの思いで立てた砂の山を足で粉々に踏み潰した。 この時桐生は人が苦労して積み上げてきたものを無慈悲に踏みにじられたような感覚がした。


「ここはおれたちの砂場だ。おまえは邪魔だからここから消えちまえ!」


桐生はそのいじめっ子とやらを睨みつけた。


「おいおい、こいつムキになってるよ!!ギャハハ。」


桐生はこの少年が気に食わなかった。 桐生は少年に必死にしがみついた。小さい体で無謀とわかっていても。勝算は皆無に等しいのに。


「お、なんだコイツ、やる気か?」


そう言って、少年は泣きながらズボンにしがみついてる桐生の体を蹴っ飛ばした。


「う、うう・・。」


桐生は本当は思いっきり泣きたかった。でも桐生の中にあった何かがそれを許さなかった。


そんな桐生の気持ちなどお構いなくいじめっ子達は桐生を挑発する。


「お?お?泣くか泣くか?えーーい、弱虫ー弱虫ー。だっせー。たかが砂遊びごときで・・」


今度こそ泣き出してしまうかと思った。いつもなら兄貴が自分を庇うために飛び込んでくる場面だったが、この時は生憎居合わせていなかった。 桐生は溺れるワラにでもすがりたかった。だがその時、桐生にとって救世主が現れた。



「たかが砂遊びをしようとしてたのはあんた達もいっしょでしょ?」


女の子の声だ。まるで天使のような甘い声だ。身長も年齢も桐生と同じくらいの。 髪は肩にかかるくらいのショートヘアーで、口元には黒子が一粒付いていた。その目は正義感に溢れていた。


「なんだおまえ!女の子だからって容赦しねーぞ!」



3人のいじめっ子達は一斉にその娘に襲いかかった。


(やられてしまう!)


桐生は自分を助けようとした女の子がボコボコにされてるところなど見てられなかった。それが理由で目を瞑ってしまった。


やがて場の空気が静まる。


(終わったのか?)


恐る恐る目を開けて見た。


その時見たもの、それは・・、自分をからかったいじめっ子達がボロボロになって全員地面を寝っ転がって気絶していた。 その中心には例の女の子が何事も無かったように立っていた。傷はどこにも見当たらなかった。その女の子は驚愕の戦闘能力を持っていた。


「うそ・・」


やがてその娘と桐生は目があった。

そして桐生の元に近づいてくる。助けてくれたはずなのに何故か怖いと思った。


「ほら、大丈夫?」


その娘は土まみれの桐生にハンカチを差し出した。


だが当時の桐生はやたらプライドが高かったのか、"もしここでこの子にお礼を言ったら、自分は初対面の女の子に助けられた弱い男"

だというレッテルを貼られてしまう。それが許せなかった。


バシッ


桐生は女の子のハンカチを払いのける。


「・・いい。」


「怪我してるじゃない、ほら受け取ってよ。」


「いいって言ってんだろ!どうしておれなんか

を助けたんだ!どうせ今でも、おれのこと、おれのことッッ!心ん中で馬鹿にしてんだろッッ!!」


するとその女の子はハンカチをポッケの中にしまい、代わりに手を差し出してきた。


「白石茜。よろしくね。」


「チッ」


桐生はいやいや女の子の手を握る。

その手の感触はとても柔らかく、とても冷たかった。 不思議な感覚だ。


「あんたの名前は?」


「・・・だ。」


桐生は小さな声で何かを呟いた。


「ん?」


白石茜はにっこり笑いながら首を傾げる。


「"桐生"だ!!この借りはいつか必ず返すからなバーカ!」


当時シャイだった桐生はそう吐き捨てると赤


らめた顔を隠しながら走っていってしまった。


「面白いな・・あの子・・。」


白石は桐生という人間の背中を不思議そうに見ていた。




これが初めて自分を受け入れてくれた『白石茜』という少女との初めての出会いだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




桐生が過去の思い出に浸っていたため石ころがさっきからこちらにずっと話しかけていた事に気がつかなかった。


「おーい、このオレっちが相手してやるってのに、無視するたあ、いい度胸じゃねーか!やっぱり所詮は石ころだから気にも留めないってか!」


「い、いや、そういうわけじゃなくてだな」


「問答無用!!石ころ達の辛さ、お前も味わうがいい!!喰らえ、"ストーンビーム"!!


石ころから白い光線が放たれた。それが桐生に命中した。 が、当たっても痛みはなかった。



「・・何が起きたんだ!?」


一見何も変化はないように見えるが・・


『おおっとお、桐生選手、石ころ選手のビームを受けて突然どこかに消えてしまったー!!』


『桐生のやつがいなくなっちまたもー!!』


何か様子がおかしい・・。


「おいお前ら、何を言っている!!おれはずっとここにいるだろ!!」


観客や審判に必死に弁明するが無駄だった。

何故なら、


「どうだ?これがオレっちの能力、"ストーンビーム"。これを受けたものは道端の石ころ同然のように扱われてしまうのだ!!いくら叫んだところで無駄だよ。人間にお前の声は届きやしない。」



「なんだとっ!?でもお前には俺が認識できるのか!?」


「オレっちは例外だ。お前を人間として認識できないのは同じ人間達だけだ!!つまり、この場にいる全員には、闘技場にオレっちとなんの変哲も無いただの石ころが置いてあるようにしか見えないということさ!!元に戻す方法はたった1つ、この試合でオレッちに勝つことだ!!」


「くっそ、やるしかねえってか!」


「たっぷりと味わうがいい。その場にいながら誰にも認識されない屈辱を!!」


To be continued..


















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