巻末資料

ブラーナ童話〈あるありふれた人形の話〉

■ Side:αアルファ


昔、ぼろぼろになった人形を旅人の少年が助ける。

目覚めた人形は、仕えている主人のもとへ帰ろうとし、旅人の少年はそれを手伝おうとする。

旅人に協力してもらい、人形は主のいる館に帰ってくる。

しかし、その時、既に館の主は亡くなっていた。

だが、人形は死が理解できず、壊れるまで死んだ主人に仕え続けたという。


……後世の歴史家は〈あるありふれた人形の話〉をこう分析する。

それは、人形と人間の×××の違いを語った物語、と。



■ Side:βベータ


昔、ぼろぼろになった人形を旅人の少年が助ける。

目覚めた人形は、仕えている主人のもとへ帰ろうとし、旅人の少年はそれを手伝おうとする。

旅人に協力してもらい、人形は主のいる館に帰ってくる。

しかし、その時、既に館には別の人間が住んでいた。

自分こそが人形の主だと主張する人間に、人形は異の声を唱えるでもなく、新しい主に仕え始める。

それを見た旅人の少年は、「お前に忠義はないのか」と人形を糾弾する。


……後世の歴史家は〈あるありふれた人形の話〉をこう分析する。

それは、人形と人間の×××の違いを語った物語、と。



■ Side:σシグマ


その昔、子供に恵まれなかった老夫婦に、人形技師が一体の人形を授けた。

人形は老夫婦に子供同然に育てられ、また人形も老夫婦を親のように慕っていた。

しかし、ある日、老夫婦が賊に殺されてしまう。

人形は親である老夫婦が亡くなったことを嘆き悲しみ、また、見殺しにしてしまったことに絶望する。


途方に暮れた人形は、老夫婦の遺言に従って人形技師の元に戻る。

しかし、館に人形技師はおらず、自分より後に作られた四体目の人形が安置されていた。

人形はそこで、水が溜まったら願い事を叶えてくれる小瓶を見つけ、それを持って旅に出る。

人形が願うのは、希望か絶望か、それとも。


……後世の歴史家は〈あるありふれた人形の話〉をこう分析する。

それは――







* * * *



 がたごとと荷馬車に揺られながら、モモはリゼットからもらったサンドイッチを食べていた。塩気のきいたベーコンと酸味のあるトマトのバランスが絶妙だ。

 食べ終わってから、紙袋を小さくたたもうとしたところで、底にある薄桃色の紙切れに気づく。


「……あれ?」


 手に取って、紙をかさりと開く。

 そこには、かわいらしい丸みのある文字で一言、こう書いてあった。


 ――たまには手紙、書きなさいよ。ユミトとフィリアも楽しみにしてるから。


「手紙……か」


 独り言のように零す。

 と、聞こえていたらしい。手綱を握っていた御者が声をかけてくる。


「お、兄ちゃん誰かにラブレターでも送るつもりかい?」

「ち、違いますよ……!」


 慌てて恥ずかしそうに否定すれば、かっかっかっ、と軽快な笑い声が返される。


 ……書いてみようか。


 今まで誰にも書いたことなかったけれど、初めてできた友達たちに、手紙を送ってみようか。

 まずは次の町についたら、文房具を探してみようか。

 リゼットが喜びそうな、あるいは自分が気に入った便せんを買って。

 旅の途中、出会った人や起きたことを書いて、彼女に送ってみようか。

 そう思い巡らせるモモの口元には、ほんのりと柔らかい笑みが浮かんでいた。






 ……後世の歴史家は〈あるありふれた人形の話〉をこう分析する。

 それは、あるありふれた人形たちが小さな幸せを手にするまでの物語、と。






~Ture End~

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モモと不思議な魔法の小瓶 久遠悠 @alshert

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