第2話 異世界転移

 おそるおそる目を開けると、中世ヨーロッパにありそうな円形広場にいた。2、3人のグループが円周上に6ヶ所等間隔で並んでる。


 「どうなってるんだ?」


 あ、阿久津くん、君いたんだね。改めて周りを見回す。ゲッあそこにいるの福沢か!? よりにもよってあいつもいるのか。他にも所々知り合いはいるが、みんな戸惑ってうろうろしてる。


 ん、俺? 俺のパニックはここに来て1秒で終わった。いろいろなパターンを脳内シュミレーションしてみて自分の力ではどうしようもないことに気付いたからな。だからこうしてゆっくりしていられるのだ。人生あきらめが大事だよ。


 「ようこそ、異世界人たちよ」


 突然後ろから声が聞こえた。振り向くと深紅のローブを見にまとい、金色の冠を被った人が悠然と広場を見下ろしていた。

 あ、この人国王だ。態度がでかいから他の奴でも分かるだろう。しかし、俺の興味は早々に国王の隣に立つ姫らしき人に移った。


 勘違いしないで欲しい。確かに美人だが、それよりも彼女の様子が俺は気になった。どこか寂しげな哀れむような顔で俺たちを見てる。ホント少しだけしか王様の安堵仕切った様子と変わらないから、分かるのは人間観察を長年続けてきた俺くらいだろうが。


 「異世界人だと? ラノベ展開きたー!」


 そこのお前いい反応だ。俺なんか「よし、部活休み確定だ」って密かにガッツポーズしてたのに。なんか恥ずかしくなってきた。


 確かあいつの名前は玉橋一樹たまはしいつきって言ったけ。阿久津と同じように裏表が少ない貴重な例外だ。性格的に無理だからあまり関わったことはないが。


 「どいうことか説明して欲しいんだが」


 おい、福沢。玉橋に水を差すんじゃない。玉橋テンション下がって・・・なかった。そのままはしゃいでる。すごいな。俺だったら無言で福沢にガンとばすがな。


 「私から説明させていただきます」


 王様の傍らにいた姫がこう切り出した。その様子には先程の哀愁は感じられない。どこか決意めいたものが漂ってる。


 「私たちはあなた方勇者に大魔王を倒して欲しいのです」


 わお、随分まとめたな。見かけによらず、おおざっぱな性格かもしれない。視界のすみの方で玉橋が「テンプレもきたー」ってはしゃいで、阿久津が呆然としてる。


 「もう少し詳しく頼む」


 前から思ってたけど福沢態度でかくない? 相手王族だよ? 動揺してるのかもしれないけど、不遜じゃない?


 まあ、いろいろツッコミたいところはあったが、まとめると、ここは異世界でブリニア王国というらしい。

 国は全部で3つ、大陸の南に位置するブリニア王国、西のサーサエル王国、東のイスタ王国があり、戦争とかはしておらず、異世界者の召喚を行えるのはブリニア王国だけ。ちなみに召喚される人間はだいたい精神力が強い人に特定されるそうだ。だから、しごかれている運動部員の比率が高いのかな。


 また、魔法が存在し、光、闇、水、火、風、土の6つの属性に分かれているらしい。ただし、闇属性は魔族にしか現れないということだ。


 大魔王というのは死者アンデット、魔獣、吸血鬼バンパイアの魔王を従えていて、3カ国の中央にある迷いの森に拠点を構え、人間種を侵略しようとしているらしい。

 エルフという種族もいる。魔族ほどではないが、少し差別意識があるらしい。


 「もとの世界に戻る手段はあるの?」


 遠くにいた女子が涙声でこう質問した。すると、姫は答えにくそうにうつむいてしまったので、王様が静かに首を振った。


 「そんな、うそでしょ」

 「こちらの都合で呼んでしまって大変申し訳なく思っている。こちらでも大魔王討伐に協力してくれるなら最大限の援助はする」

 「本当にないの?」

 「あるにはあるが、不可能に近い」

 「それでもいいから教えてよ」

 「あなたたちを召喚した魔法を改良すればできると考えられてはいるが、もともと異世界人の召喚魔法は千年前の先祖から受け継がれ、百年ごとに行われているが、これすらも未だ解読できていないのだ」


 その言葉を聞いた時点でその女子は地面に崩れ落ちてしまった。

 

 「でも、訓練も受けていない民間人の俺たちが役に立てるとは思わないんですが」 


 阿久津はようやくショックから立ち直ったらしい。まともな質問をしている。


 「そのことについては彼らから説明する」


 王様がそう言うと後ろからローブのような服を着ている女の人が歩み出てきた。


 「説明は長くなるので、別室まで着いてきて下さい」


 こちらの返事を待つことなく、歩き始めてしまったので、福沢を先頭にしてみんなついていく。


 そして案内された部屋は教室に似ていて黒板のようなものまである。地球と違うところは机が横で繋がっていることくらいだ。


 「みなさん、お好きな席に着席ください」


 みんなが席に着いたのを見計らって二枚の紙が手渡される。真ん中に魔方陣のようなものが描かれている固めの名刺サイズのと真っ白なA4くらいのやつだ。


 ローブの人が話し始めた。


 「私の名前はリリー・アシフォード。宮廷魔法士をしています。まず、先ほどの質問の答えですが、手元の紙がそれを示してくれます。みなさん中央の魔方陣に手をかざして下さい。みなさんの異世界人補正がかかり、こちらの世界では相当強いステータス値が表示されるはずです。このステータスは本人以外見れないので配った別紙に写して下さい」

 「なるほどチートか」

 「先代の勇者様もそのように言っていたようです」


 とたんにみんなが真剣な表情で手をかざし始めた。どうやら魔方陣が光った後にステータス表示されるらしい。おれもやってみよう。

 そう言えば日本語で書かれてるのかな。まあ、こっちの言語の言ってる意味は分かるし、加護的なものだろうだから大丈夫だろう。そしていよいよ本番。


 「えっ?」


 そこには信じられないことが書いてあった。

 

 拝啓、天国のお父さん、お母さん、僕はどうやらこっちでも面倒事に巻き込まれたようです。

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