甘い出会い

「メル・アイヴィーといいます。よろしくお願いします」


 教室で自己紹介をした直後、「おおお」と男子生徒のどよめき。

 今回も痛いほどに視線を感じる。

 逆に女性生徒からは、殺意の視線がちらほら。

 これは、『嫉妬レヴィアタン』にお願いして、後で何とかしてもらおう。


 私がとりたてて美しい神なのではなく、神としては普通のことらしい。

 神の外見は、その世界の望ましいものとなるのだと、配属当初に教えられた。


 しかし問題はここからだった。

 席についた途端いつものアレが私を襲う…… 


 ぎゅるううううううう


 ……は、恥ずかしいっ!


 とっさに左右を確認するそぶりをしてごまかす。

 ごまかせているだろうか……私が頭を悩ませていたその時。


「先生、すみません。ちょっとおなかの調子が悪いみたいなんで、保健室いってきていいすか?」


 隣の席の男子だった。

 当然周りは大爆笑。


「しかたないな、真野まの勇人ゆうと、行ってこい」


 先生もが笑顔になっている。


 周囲の人間から少し思いを吸収した限りでは、この男の子は、クラスで男女変わらぬ人気があるようだ。先生ですら、彼に心を許している。


 私は彼に興味を持った。


「あ、あの私も、いいでしょうか」


 ヒューヒューという声を後ろに、他の微妙な好悪の感情を感じながらも、私は教室の外に出た。



 無言で彼の背中に付き添っていたところ、いつのまにか高校の屋上に来ていた。


「あ、あの、さっき、ありがとう」


「気にすんなって。おなかがすいたら仕方ないだろう」


 はじめてだった。


 こんなに心が、

  人間として、

   持っていかれるのは!


「女子とか特に、皆ダイエット頑張ってるみたいだしな。どうせ、お前も朝ちゃんと食べてないんだろ。確かに細い体形が好みって男もいるけどな、大事なのは自分の体だぞ。ほれ、食べろ」


 そういうと、ポケットから出したビスケットを私にくれた。


「あ、ありがと」


 私は、きっとこの時、人間でいう、恋というものに落ちてしまったらしい。

 彼は、私のアイデンティティである、食べることの肯定をしてくれたのだ!

 

 それからは、通学や、学校生活、放課後など、彼とともにした。

 一緒にいる時間が長くなればなるほど、彼の良さを感じた。


 彼の素晴らしいところは、周囲の人間の彼への反応を吸収すると気持ち良いことだった。


 それだけ彼は人として人にとって魅力的なのだろう。


 この世界は、なんと素晴らしいのだろう。

 この時の私は、神では無く、完全に一人の乙女だった。

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