乳舐祭〈前編〉

 一年でカルボ王国が最大の盛り上がりを見せるのは、乳舐祭の日だ。

 乳殿へと続く道の両脇には、それぞれに甘い香りを漂わせる屋台が並んでおり、様々な獣乳製品と生乳との乳々交換がされていた。


「にゅにゅにゅ! どいちもこいちも乳房を晒けだしておるではないか!」

「《射乳会しゃにゅうかい》とやらが待ち遠しいのぉ」

「π壮な眺めじゃ。やはりカルボの乳房は美しい」


 王子たちは朝から夕方まで数々の屋台を回っては、カルボの乳産品を飲み歩いていた。

 そしてπ陽が落ち始めた頃、乳舞台のあった広場に、上の乳衣を脱いで乳房を丸出しにした乳民たちが集まりだした。


「なんじゃ? なんじゃ?」

「どうやら射乳会が始まるようです」


 音楽隊が舞台上で豊満な旋律を響かせると、広場にいた誰しもが乳雅な乳舞を踊りだした。

 彼乳らは共に踊るための相乳を見つけると、その背中を乳頭でつついた。そして互いの乳房を下げると向かい合い、一定の乳拍子を刻んで乳房を揺らし合うと、最後には互いの乳杯に乳汁を注いで呑み合っていた。


「これが、射乳会か……」

「一定の射法があるようです」

「いざ参る!!」

「あっ、王子ぃ!!」


 王子は視界に入った中で、最も大きな乳房を持つ者を見つけ、発達途上の清乳を押しつけた。


「これは、これは……なんと乳栄な……」


 振り返った者は、背中への感触でそれが何乳かを察したようだ。その一際尖った乳は、仄かに赤みを帯びていった。


「おぬちの乳は美ちい。もしや、この国の乳富ではないか?」


「王子様には、どんなに小さな乳首でも隠し通せませぬ」


 周りの乳民たちの踊りを見よう見まねしながら、王子は音楽に乗せて乳房を揺らした。その鋭乳と呼吸を合わせながら、互いの揺れっぷりを目で楽しんだ。

 そして踊り終わると、まずは王子が乳富の乳房に口を近付けた。


「なりませぬ。乳杯にゅうはいに注がせてくださいませ」

「いや、しかし、乳杯を持っておらぬのじゃ」


「それでは屈んで、お口をお開きなって」


 王子は言われた通りに両膝を落として屈むと、その白い放乳を口内で受け止めた。

 すると口の中へ広がったのは、酸っぱくも油っぽくもない、透き通った甘み。オリゴ乳王やビフィとは異なる乳の味を舌で弄び、飲み下してから目を開くと、今度は乳富が乳杯を向けて乳まずいていた。


「それでは、御乳を頂きとうございまする」

「なに? わちの乳はまだ出ぬぞ?」

「ぱい?」


 何を言っているのか分からぬというような胸色の彼乳に、王子は乳衣を捲り、乳首をつねってみせた。

 王子の予想通り、そこからは一滴たりとも乳が出そうもなかった。


「そんな……では何故わっちを乳でつついたのか!! この無乳むにゅう者! この乳晒し者!!」


 いきり立った鋭い乳房が、王子の頬をバチンバチンと打った。


「何をする! 何を――」


 王子の顔に向けて、甘い乳汁が迸る。


「皆の乳よ、よく聞け!! このプロティーンより来たる王子は、乳を呑むだけの濃無しぞ!!」


 周りの乳民たちは、困惑する王子に勃起した乳首を向けた。

 射法に反する者に対して、カルボの乳民らは敏感だったのだ。


「わわっ!! すまぬぅ!! 許ちてくだされぇ!! これより代わりの者が――フェリン!! チムゥ!!」

「乳を出さぬ者、呑むべからずなりぃ!!」


 怒れる無数の乳房たちに突き出され、王子は広場から追い立てられた。

 その途中、四天乳たちの姿も見かけたが、彼乳らは乳を交わすのに夢中で、王子のことに気が付かない。


「誰かぁ! 誰かぁ!」


 とうとう広場の出入口まで戻されると、王子の乳の前に見慣れた軟乳が現れた。


「バスティ王子、何をなさっておるのですか?」

「ビフィ!! 良いところに参った! 乳酒の準備は!?」

「ボインと持って参りました」


 ビフィの引いていた乳車には、一谷では抱えきれないほどの大きさの乳樽ちちだるが乗せられていた。

 昨晩から寝ずに仕込んだ乳酒の香りが、そこから漂っている。


「でかした! ええぃ、放せ放せぃ!! これからおぬちらに、乳汁よりも良いものを飲ませてくれるわ! ビフィ! 配り給え!!」


「乳意!! さぁさぁ、皆の乳よ。これぞチチカリ族の間で飲まれている乳酒じゃあ!! 珍しい乳産品の大放出じゃぞぉ!! 飲みたい者は乳杯を持って参れぃ!!」


 我こそは我こそはと大勢の乳房が揺れに揺れ、乳樽の前に列を作り、次々と放乳される乳酒が飲まれていった。


「おやっ、乳酒ではないか!」

「まだ残っておったとは! どれ……」


 騒ぎを聞きつけ、ロブリナとルブミンがやってきた。だが、彼乳らが飲列の後ろに並ぼうとした乳先、王子が立ちはだかった。


「おぬちらは飲んではならぬ」

「そんなぁ」「なんと!」


「さぁ、さぁ、そこの乳衛兵たちよ! これを逃すと、次に飲めるのは一年後かもしれぬぞ!!」


 乳衛兵は乳矛を投げ捨てると、落ちていた乳杯を拾い、列の最後乳に並んだ。どこの国の乳民も、新しい乳産品には乳味津々なところは変わらない。


「焦るな、焦るな、ボインとあるからのぉ! おっぱっぱ!!」


 群れる乳房に両頬を押しつけられながら、ビフィは顔に浴びた乳汁を舐め取った。



  ω ω ω



 王子が目を覚ましたとき、すっかりπ陽は落ちていた。

 乳月が宵闇を照らす中、巨乳のように重たい瞼で辺りを見回すと、無数の乳民たちが乳持ち良さそうに乳房を丸出しにして寝転がっていた。


「はて……? わちは何を……?」


 王子はズキンズキンと痛む頭を押さえながら、足元に転がっていた乳樽を見て、それまでのことを思い出した。

 気分が良くなり、無乳講でお互いの乳を呑み合っていたカルボの乳民たち。飲むつもりがなかったものの、乳酒を何口か飲んでしまったのだ。


「そうじゃ……こうしてはおれぬ……」


 王子は乳鳥足で周囲を歩き回ると、一谷の乳房に躓いた。


「この柔らかさは……チムじゃな!」


 暗闇の中、念のため手で触って確認するも、やはりチムの柔らかい乳房に違いなかった。


「起きよ……チム。起きよ……」


 王子は乱れた乳衣から飛び出したチムの胸を揉み、乳首をつまんでみた。しかし彼乳は全く起きそうになかった。


 仕方なく王子は、チムの両乳首から指二本分下にあるツボを押した。三拍数えては離し、また三拍数えては離した。

 するとチムの乳房は、みるみるうちに膨らんでいき、ついには間欠泉と見粉うばかりの乳汁が噴射して、王子の顔に噴きかけられた。


「あわわ……王子? おっぱいが呑みとうございまするか?」

「そうではない。辺りを見よ、皆の乳が寝ておるぞ」


「王子……まさか……」

「他の天乳たちも起こしてカルボを出る。乳離れなどするものか」

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