アンドロイド

ハイブリッド・ロボットを超え、ヒトと限りなく近い存在。


それを定義とする以上、アンドロイドは、根本的な内部構造や性能は大前提であるとして、破壊の象徴となりつつあるハイブリッド・ロボットとは決定的に違う何かを持たせる必要があった。


そこでヴィルヘルムは、ヒトの原初たる男女の存在に準えて、アンドロイドのアダムとイヴも、男性と女性の形、そして人格を持たせた。


つまり、性別という概念の存在。


この概念はハイブリッド・ロボットには無かったものだが、アンドロイドには備わっていた。


ハイブリッド・ロボットを超え、ヒトに限りなく近く、ヒトと同じ無限の可能性を秘めた存在。


それを目的として生み出した結果による概念であり、一見すれば不要とも思えるものだが、可能性を求めたヴィルヘルムが敢えて取り入れたものだった。


アンドロイドの定義を掲げたヴィルヘルムは、まずは男女の身体を模した内部フレームを製造。


それに並行して、男女それぞれの人格を模倣させた人工知能を開発し、性別という概念を簡易的ではあるが実現させる。


加えてオメガの動力炉を複製し、それをアダムとイヴに搭載させたことで、アンドロイドの二体は試験的でありながらも起動に成功した。



この起動実験に確かな感触を得たヴィルヘルムは、アンドロイドの更なる進化を求めて、真のアンドロイドの開発を目指した。


そして、新たなアンドロイドを開発するにあたって、いくつかの課題が浮かび上がり、ヴィルヘルムは様々な手法でそれに挑んだ。



一つは、アルファとオメガの時点で取り入れていた、半永久的に稼動する動力炉の改良だった。


オメガに搭載されていた動力炉は、介入が長期戦になること、そして一機で大多数の戦闘を行わせることを前提に改良されたもので、あくまでエネルギーを出力に変換させることと半永久的な稼働の両立が前提だった。


既存の動力機関とは明らかに一線を画した代物ではあるが、それでも機体稼働時間の維持、加えて装備のエネルギー消費量が絶大な負荷となり、結果として機体稼働とエネルギー調整の両立は不安定なものとなってしまっていた。


それは元来、アルファの動力炉に改良を加えたということ、つまり本来は戦闘用のそれではないものを半ば強制的に対応させたことが原因であるのは、ヴィルヘルムも理解していた。


その反省点を踏まえて、オメガに搭載されていた動力炉とは違う、機体稼働とエネルギー調整の両立を前提に置いたアンドロイド専用の半永久動力炉の開発が必要だった。



もう一つは、機体構造の改良による、機能性と汎用性の拡張及び向上。


動力炉の改善によって、まずはその高出力に耐えうる構造の強化に着手する。


しかし、単なる構造強化を施したところで、動力炉から供給されるエネルギーを持て余すことが発覚した。


そこでヴィルヘルムは、機体維持制御と無駄を排除したエネルギー調整が可能な専用フレームを新たに製造。


複雑化したフレームを覆う物質を動力炉からのエネルギーで反応する人工筋肉で構成し、これにより動きの精密化と、エネルギー供給による反応を起こすという特性から、新型動力炉の高出力を一切無駄にすることなく機動性の確保を実現した。


そして、汎用性というハイブリッド・ロボットの特性を最も活かして、専用装備を複数開発し、様々な局面の対応を可能とさせた。



そして、最後の一つ。


アンドロイドが、ヒトに限りなく近い存在である由縁のもの。


つまり、自律性の搭載だった。


自らの意志で判断、行動し、ヒトと違わぬ特性の所持。


それこそが、アンドロイドを、ヒトに限りなく近い存在にしたと言っても過言では無かった。


ヴィルヘルムは、人工知能をより精密化させる為に、ヒトの思考と行動をできる限り模倣し、それをプログラムとして組み込ませた。



限りなくヒトに近く、限りなくヒトから遠い、機械でありながら機械でない究極の存在。



それを追い求めたヴィルヘルムは、長年の月日と自らの命を費やし、遂に一体のアンドロイドを開発する。


だが、ヴィルヘルムはそのアンドロイドを起動する前にその生涯を閉じ、彼が夢見た理想の未来を見ることは叶わなかった。


そしてそのアンドロイドも、深い眠りについたまま、人知れない場所でただ目覚めの時を待っていた。

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