第十五話

 ジャックは酒場で貰った地図を頼りに、目的地であるウエポンディーラーが経営する店へ辿り着いた。

 「ここが...IDMsって店か。本当にタダなんだろうな...」

 ジャックは疑いながらも店の中に入っていく。中には大型の機関銃やロケットランチャーやアンドロイド、隠し武器などが並んでいた。

 「いらっしゃい。見ない顔だな、何をお探しで?」

 「そうだな...取り敢えず、取り回しが良い武器はねぇか?」

 「そこら辺のハンドガン類はどうだ? マシンピストルもあるぞ」

 ジャックの言葉にウエポンディーラーの男は指を指して場所を指定した。ジャックは指定されたハンドガン類が置いてあるショーケースを眺め始める。

 「お兄さん、余所者かい?」

 「まぁ、余所者っちゃ余所者だな」

 「武器で武装するのは辞めろとは言わないけど、この都市に黄色い腕章着けてる奴等には喧嘩売るなよ」

 ウエポンディーラーの言葉にジャックは首を傾げる。意味がわからず聞き返した。

 「どういう意味だ? ゴロツキマフィアだからって事か?」

 「いや、まぁ強ち間違っちゃいない。奴等はこの都市を牛耳ってるマフィアだ」

 「......そうか。なら俺に依頼しねぇか?」

 ジャックはショーケース内の銃器を物色するように眺めながら呟く。ウエポンディーラーの男はジャックの言葉を復唱して聞き返す。

 「依頼だって?」

 「あぁ。俺は日銭稼ぎで傭兵紛いの事をやっててな。金さえ貰えりゃなんだってやるぜ。ペット探しから殺し、果てには戦車引っ張ってくる依頼だってこなすぜ、俺は」

 ジャックの言葉に男は少し渋った顔をしながらカウンターに札束が入った封筒を置いた。

 「なら...ここに150万ある。マフィアを壊滅してくれ。政府はマフィアの傀儡と化してる。......マフィアさえ消えればこの都市は元に戻ると思うんだ。だから...頼む!」

 「フッ...あぁ、頼まれた。その為に、持てるだけ武器は持ってかせて貰うぜ」

 ジャックはそう言ってショーケースからリボルバーマグナムを二丁、大口径のハンドガンも二丁。マシンピストルも二丁。更に軽機関銃やロケットランチャー、グレネードなどを体の至る所に括り着ける。

 「そ、そんなに持っていくのか?」

 「マフィア壊滅させるんだ。これでも足りないだろうよ」

 「なら......コイツも持っていってくれ。この店、最強の武器。高周波ブレードだ」

 男は札束の封筒の上に鞘に収まった一振りの刀を置いた。置かれた刀を見て、ジャックは怪訝な顔をした。

 「高周波ブレードォ? なんだそりゃ」

 「書いて名の通りだ。刀身に高周波を流す事で刀身の原子間結合を強め、逆に刀身で斬れば原子間結合を弱める事が出来る武器だ。

 コイツは極東の島国から渡ってきた男が俺に預けた業物のカタナ。銘を『朧影道オボロカゲミチ』と言うらしい。

 アンタならコイツを使いこなせると俺が勝手に思った。だからアンタに託すよ」

 渡された鍔の無い日本刀。それの刀身は高周波を受け、妖しく紫色に似た色に変色していた。

 「これは......」

 「余所者のアンタに頼むのもお門違いだと思う。だが、アンタしか頼めるヤツがいない。この都市を救ってくれ」

 「言ったろ、頼まれたってな。頼まれた依頼はこなすさ」

 ジャックは全身武装した状態で店を出ていった。

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 ......と言って出ていったは良いものの...どこにマフィアの本拠地があるんだ......

 ジャックは宛もなくただ街をさ迷っていた。さ迷い始めてから、一時間は経つだろう。ようやく救いの手が現れた。それはなにか、マフィアの下っぱである。

 「テメェ、何チャカなんて担いでうろちょろしてやがる」

 「マフィアってもっと温厚な人間が多いと思ってたぜ。口調がギャングのそれだぞ」

 「あぁ?! テメェ、舐めてっと」

 「痛い目にあわせる...か? 常套句だな。それより、お前らのボスに用がある。見逃すか考えてやるから、さっさと案内しやがれ」

 ジャックは担いでいた銃器の中から機関銃を取り出して構える。

 「お、脅しなら...」

 「脅してる様に見えるか? 腕の一本や二本、吹き飛ばしたって構わないんだぜ? 俺は」

 ジャックの目付きと機関銃の銃口にビビった下っぱは手をあげた。

 「わかった。降参だ......ボスの屋敷はこの大通りを真っ直ぐ行けばわかる。白くてデカイ屋敷だ」

 「そうか。感謝するよ」

 ジャックはそのまま機関銃の引き金を引いた。銃声の後に空薬莢が音を立てて落ちる。

 ヒトの形をした肉塊は、音を立てて崩れ落ちた。

 「こ、殺さねぇって言ったじゃねぇか!」

 「見逃すかを考えてやるとは言ったが、殺さないとは言ってねぇんだよな、これがよ。

 お前らがボスや幹部へ襲撃を報告しても面倒なんでな。ここで死んで貰う」

 ジャックはもう一人の下っぱを殺して、屋敷へと向かったのだった。─────────────────────

 「ここがマフィアの本拠地か......」

 ジャックはロケットランチャーを構えて、弾頭を射つ。打ち出された弾頭は屋敷に当たり、爆発した。

 瓦礫が崩れ、辺り一面に破片が飛び散る。そんな光景を見ながらジャックは笑う。

 「おぉ~......こりゃ気持ちいいな」

 屋敷からゾロゾロ出てくるマフィア達をショットガンやグレネードを駆使して殺していき、弾切れの武器を捨てて、屋敷の中へ入っていく。

 「ゴキブリみてぇにウジャウジャ出てくるじゃねぇか」

「お前ら、やっちまえ!!」

 マフィア達の銃の乱射を避けながらジャックは的確にマフィア達を殺していった。

 出てきたマフィアが最後の一人になった時、ジャックはマフィアに問うた。

 「お前のボスはどこにいる? 額で煙草吸いたく無けりゃ、答えな」

 「こ、この先の部屋で奥様と酒を飲んでいる筈だ...教えたんだ、命だけは......」

 「お前らマフィアってのはテメェの命にしか興味ねぇのか? ボスへの忠義はどこいったよ......来世でマフィアやるんなら、ボスへの忠義位は持っときな」

 ジャックは引き金を引く。1発の銃声が鳴り響いて、最後の1人は無様に倒れる。

 その時のジャックの瞳は虚空だった。 

 「......さて、後はボスだけだな」

 ジャックは最後の武器すら捨てて懐からハンドガンを取り出してスライドを引く。

 まるで踊っているかの様に優雅に華麗に歩き、煙草を咥えて火を着けた。

 「懐かしい感じだ。久しく感じて無かった。肌に刺さる殺気も、血と硝煙の香り、地面を転がる空薬莢......全部が愛おしい」

 ジャックは紫煙を吐いて思い出す様に呟く。ジャックのブーツには遺体の血が着いており、白い床に赤い足跡を残す。

 最奥にある扉を蹴破ったジャック。扉の中には怯えた様子でリボルバーを構えるスキンヘッドの男。スキンヘッドの横には派手なドレスに身を包んだ女が腰を抜かして座り込んでいた。

 ジャックは煙草を左手に持つと、スキンヘッドの男へ疑問をぶつける。

 「なぁ、お前さんがこの街を牛耳ってるマフィアのボスかい?」

 「だったらどうする! テメェは大人しく銃を捨てて跪け!」

 スキンヘッドの男が構えているリボルバーはコルトパイソン。もう既に製造が終わっている名銃であり、プレミア物のビンテージである。

 対するジャックが持つハンドガンもコルトガバメント。こちらも名銃であり、名の知れ渡った銃。

 ジャックはスキンヘッドの男の答えに深い溜め息を吐いて煙草を投げ捨て、ガバメントの引き金を引いた。

 射撃の腕は未だ鈍っておらず、パイソンを握る指を吹き飛ばすと近付いてパイソンを拾い上げる。

 「中々に良い銃を使うな、お前さん。ロマンに満ちてやがる。良い選択だとも思うぜ? 俺はな。

 けどなぁ? お前さんみてぇな小物が扱える程、軽い銃じゃねぇのよ。テメェが侍らせてる尻軽女とは訳が違ぇ」

 「う......うぅ......」

 スキンヘッドは未だに指が吹き飛んだ痛みに呻いている。ジャックはスキンヘッドの頭にパイソンを突き付けた。

 「こんなゼロ距離で撃てば頭が吹き飛ぶ。指の1本や2本が吹き飛ばされた痛みなんて些細な事になるぜ? ま、痛みなんて感じる間も無くお陀仏だけどな」

 「こ、こ、殺さないでくれぇ......」

 「オイオイ、そいつぁ......筋が通らねぇだろう? お前さん、今まで街の人達を苦しめて殺してきたそうじゃねぇか。ならしっぺ返しが来ても文句は言っちゃいけねぇよ。

 それじゃぁ、自分が殺した人間達と熱々の鉄靴を履いて、タップダンスでも踊って来な。地獄でよ」

 スキンヘッドの命乞いに耳を貸すこと無く、ジャックはニヒルな笑みを浮かべて告げる。

 だがジャックはパイソンの引き金を引く瞬間だけ、無表情だった。

 「さて、仕事は終いだ。そこで腰抜かしてる女。死にたくなけりゃ逃げる事をオススメするぜ」

 ジャックの忠告に涙を流しながら笑う女。女はスキンヘッドの机から小さなハンドガンを持つと口に加えた。

 「お、おい!待......」

 1発の乾いた銃声が響き、ドチャッと音を立てて女は倒れる。空薬莢がジャックの足元まで転がった。

 「.........女の死に際程、見たくねぇモノはねぇな」

 ジャックはそれだけ呟いて屋敷を後にした。

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 その後ジャックは依頼が終わった事をウェポンディーラーに伝え、街を出ようとしていた。

 「もう行っちまうのかい?」

 「あぁ。俺は色々な街を見て、感じて、友の遺した願いを叶える為に足掻く旅に出てるのさ」

 ジャックはウェリントンタイプのサングラスを掛けてウェポンディーラーへと告げる。

 「アンタは俺らにとってのヒーローだよ。それだけは忘れないでくれ」

 「忘れねぇさ、記憶が覚えてる限りはな。またいつか、何処かで会える日を楽しみにしてるぜ」

 ジャックはバイクを吹かして走り去っていった。

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アンドロイドと夢を見る 野上獅子 @Leon-Heart

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