第9話星降りの歌

「結局、どう抗っても滅びに向かう。星樹が朽ちた世界では、一つの精霊ではどうにもならん。のう、シエル。お主は何を考えておった」

眼下で続く大混乱の中、老婆は一人夜空を見上げる。


無数の星々が雨のように降り注ぐ。燃える様に輝く軌跡。その中に、大地に突き刺さるものもあった。


世界の終焉を告げる音。揺れる大地。絶え間ない星々の群れ。

絶望という名の帳が、静かにその時を待っていた。


「巫女様!」

荒々しく開いた扉を放置し、エビルが部屋の中に駆けこんできた。


「巫女様! なにとぞ星を!」

瞬時にテラスにいる巫女を見つけ、エビルは巫女に迫っていた。


「無駄じゃ」

深々とため息をついた老婆の眼は深く、暗いものだった。振り返り、何か言おうとするエビルを制して、老婆は大きく息を吐く。


「結び切れない星は大地に落ちる。当然じゃ。もはやこの命をかけても同じこと。よもやこれほどとは儂も思っておらなんだからな。せっかく生まれた精霊も、これでは結びきれんじゃろう。それに……。この有様では祈るまい」


深々とため息をついた老婆の背を、輝く光が包み込む。振り返った老婆の眼に、確かな希望の光となって飛び込んできた。


大祭の広場のはるか向こうに、星樹から。


「おお、星樹が!? まさか! メルが!」

駆け寄り、震えるその手でテラスの淵をつかむ老婆。驚く口を閉じたあと、振り返り、強い口調で告げていた。


「歌える全ての星の歌姫を集めよ! 皆もきっと見ておる。あれは希望の光ぞ! 急げ! 儂と共に星降りの大祭を成し遂げるんじゃ!」


駆けだすエビルを見送り、再び外を見つめる老婆。その顔を、一筋の涙が流れ落ちる。


「シエル、見せてやりたかったわい」

急いで部屋をでる老婆の顔は、決意で引き締められていた。

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