第3話

 そろそろ春なのにもかかわらず、肌寒い朝だった。毛布から這い出て外を見る。清々しいほどの快晴だ。

 支度を整え、ガレージの扉を開けると中にはポツンと寂しく郵政カブが止まっている。

 旅の出発にも関わらず、誰も見送ってくれる人は居ない、この誰も居ない世界じゃ当たり前なのだが、どうしても寂しく感じてしまう。


 何はともあれこの町とも少しお別れだ。この広い大地を周り、もし誰とも出会えず、独りだったら、また戻ってこよう。

 白地に赤いラインが入ったジェットヘルメットをゆっくりと被り、シートに跨ってキックペダルに足を添える。そして一気に踏み降ろすとエンジンに火が入る。アクセルを捻ると誰もいない住宅街に荒々しいエンジンの音が響く。


 さあ出発だ。と呟き、バブルシールドを下ろした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る