第49話 4年目

3月末日から4月中旬までの間に

シーズン契約でバイトに来ていた子たちが帰って行った。

同時にジョージも飛んでしまい

『上』との相談で、4月末日に店を閉めた。


シーズン契約の子は勿論の事、私も3月分の給料は払われる事はなかった。

幸い、東京時代の借金は返済済みだったし、寮から追い出される事もなかったので

なんとか生活する事は出来た。

それは、うてなの方も同じらしかった。

私達は2人とも、理由は違うが忙しすぎて遊びに行かなかったからでもあった。


店を閉め、最初の頃こそは部屋でボヤーと過ごしていたが

飽きて来てからは、シーズン前に知り合いになったバーへ、

用事がない日は毎日のように飲みに行った。

シーズン中も毎晩のように通っていたから、行かないと連絡がくるのだ。

昼間は泥のように寝て、夕方に起きてからシャワーを浴び

毎晩ゴハンを食べに春さんの家に通ってもいた。

店を閉めた事を心配した春さんが、

『何時でもいいからゴハンを食べに来なさい』と言ったからだ。


その頃には、春さんはスーパーでレジ打ちのバイトをしていたが

坂本さんは、相変わらず春さんの家でノンビリしていた。

坂本さんに対する私の認識は変わらず『胡散臭い』というものではあったが

春さんの家で話をするたびに『胡散臭い』という思いは大きくなるばかりだった。

結局、いまだに『胡散臭い人』という認識は変わってはいない。


夕方に春さんの家に行き、当たり前のようにビールばかり飲んでいた。

たまに昼間にお客さんと出掛けた時にはお土産を買って行ったりもしていたが

基本は1円も払わず、春さんの脛をかじって生活していた。

春さんは、以前のように私をダルダルに甘やかしていた。


夜は誰かと飲みに行ったりもしていたが、1人で飲みに行く事も増えたので

当たり前だが貯金はドンドンなくなっていった。

『上』に何度か『未払い分の給料払って』とは言ってはみたが

色の良い返事は帰って来なかった。

仕方がないので、店にツケがあるお客様から回収する事にした。

それには『上』も反対しなかった。

ツケの回収は、かなり困難だった。

雅ママの時からのツケの回収も残っていたり、

私は連絡先を知らないお客様も多かったからだ。

何よりもジョージのツケの金額が半端なかったことにガッカリした。


春さんのお客様筋と私のお客様筋から回収する事にしたが

これがメンドウな作業だった。

消え物の借金の金払いが良い人の方が稀なのだろう。

1人ではままならなかったので、

助っ人として坂本さんに車を出してもらう事にした。

効果は抜群で、ただ、坂本さんに運転してもらってるだけで

ほとんどの人が払ってくれた。


そして、秋。

冬のシーズンが始まる前に私は白馬を出ることにした。

東京に帰ろうと思ったが、ノンプランで暮らし過ぎて貯金も少なくなっていたので

北戸田という所に部屋を借りて、2回目の白馬からの脱出をした。

時をほぼ同時に、春さんたちも長野市内へ引っ越して行った。


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毒を喰らわば皿まで 橘 雨月 @akorin74

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