第20話 日常

その高円寺の店は、他の店より、かなり自由だった。

普通は、引き抜き防止の『同業者NG』だったり、

風紀防止のため黒服と女の子は一緒に出掛けてはいけない

などのルールがある。

が、その店には、そういうルールはなかった。

そんな事から、私も本社や店の従業員とも飲みに行ったりもしていた。

当時『あまり家に居る時間がない』とこぼしたら、

本社から『寮の1部屋を無料で使っていいよ』と言われるほどには

店に貢献していたからだろう。


夕方に、ヘルプの女の子を食事に誘う事は多かった私だが、

閉店後は、どちらかというと『お姉さん格』の方々とご一緒した。

たとえ私の方が稼いでいようと、『お姉さん』と言うものは

気前よくご馳走してくれたので、素直に甘えた。

お客様との約束がない日は、ほぼ1人の酒癖・男癖の悪い、

しかし素晴らしく気前のいいお姉さんに遊びに連れまわして頂いた。

高円寺はもちろんだが、そのお姉さん『久美ちゃん』も

元は歌舞伎町の別の店から流れてきた口だったので、

主に歌舞伎町が多かった。

帰りが楽なので、私には都合が良かったが、

他の連れまわされている面々は、久美ちゃんも含め

ほとんどが高円寺住まい(寮住まい)だったので、

酔っぱらったガタイの良い姉さんを連れて帰るのは、さぞ大変だったと思う。

ホストではなく、老舗のボッタクリ店なのだが、

高円寺に来る前に、そこの系列で働いていたらしく姉さんのお気に入りだった。

手の空いてる女の子をガンガン席に着け、

毎回のようにボトルを10本近く空けた。

その当時、私は『ビールしか飲めない』といい、

お客様がいる所では、ビールしか飲まなかったが

その店では『梅酒』を飲んでいた。

なんという名前かは知らないが、

なんでも『梅をブランデーに付け込んだ梅酒』だそうで

その店では1本5万(ボッタクリなので普通の相場も判らないが)した。

1回のみに行けば、久美姉さんの半期分の給料が楽に飛んでる計算だが

週3・4回は連れて行かれた。

会計を見るほど野暮でもなかったので、いつも『ごちそうさまでした』と言った。

たまに出前で寿司を振舞ったりはした。


久美ちゃんは、そこの従業員の男がお気に入りらしく

ほとんどが久美ちゃんは、そのお兄さんに掛かりっきりだった。

その反対側には、私たちの店の黒服の『高橋君』がいた。

久美ちゃんのお気に入りで、私以上に・・・

イヤ、毎回毎夜、高橋君を連れて飲みに出ていた。

久美ちゃんにとっては、ホストと同じ感覚だったのかもしれない。

私は、他の面々やその店の女の子の相手をしていた。

高橋君と私しかお供が居ない時は、1人で飲んでいたりもした。

苦ではなく楽しかったが、とにかく長いのが疲れた。

しかし先に帰れるような雰囲気でもなく、ひたすら飲み続けていた。

ボトルが異常にハイスピードで空いて行くのは、私のせいかもしれなかった。


そんな事で、売上ランキングが落ちる私ではなかったが

その頃ぐらいは、久美ちゃんのランクが少しづつ落ちていた。

正確には売上は、さほど変化はなかったのだが

件のあけみちゃんの売上が上がったせいでもあった。

その当時、私は20だったが、店内の年齢的には中堅で

ママを除けば『お姉さん』的な人は、4人いた。

常時、15人前後の店に、『お姉さん4人』は結構多かったのだろう。

その4人の中では1位だった久美ちゃんは、あけみちゃんに負け

ママの子飼いの子に負けたのだ。

仕方がないとは言え、飲み歩く方が気楽だったのだと思う。

売上は変わらないのに何故だろう?と本人は思っていたようだが、

新規オープンした店で売上が平行線では、抜かれるとは考えていないようだった。

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