第17話 新天地

そんなこんなあり、2軒目の店は、全くやる気が出なかった。

そんなこんなは、ただの言い訳で、寮生活をしていなければ

余程の事がないかぎりクビになる事がないからだ。


2軒目を辞める最後の月、私は『指名』を3本しか取らなかった。

さすがに『マズイな』と思っていた。

ちょうどその時、新店舗を立ち上げる話があった。

『そこのオープニングスタッフとして行ってくれないか?』

と打診された。

場所は『高円寺』。

抜弁天に住んでる私には本来くる話ではない。

体のクビ切りだな。と思ったが行く事にした。

最低時給は下がるが、ポイントスライド制で

売上を出せば、歌舞伎町より儲かるシステムだったからだ。

合わなければ辞めればいい。

家賃と光熱費さえ払えればいい。

そんな程度の気持ちだった。


高円寺は、オモシロイ所だった。

オモシロイ人が多かった。

最初の1月は前と同じ時給を稼ぐのが精一杯だったが

翌月からは、オモシロイ程に売上が上がった。

時給も待遇も、オソロシイ程に上がった。

毎晩のように飲み歩き、豪遊し、

帰るのは早くて5時、遅いと10時頃だった。


家に帰れば寝て、14時には起きて支度をし

開店前は『同伴』か、ヘルプの女の子を食事につれていく日々だった。

日曜定休の店だったが、1日寝ているかお客様とデートへ出掛けた。

あれだけ売上を出さなかった歌舞伎町店にヘルプで行ったりもした。

当然、忍ちゃんと顔を合わせる時間は減った。

一緒に遊びに行く事も、なくなった。


この頃は、遊びに行くより仕事を優先していた。

元々、私は何かに依存しやすく、この頃はそれが仕事だったのだと思う。

この店にも半年程しかいなかったが、

2か月目以降は、毎回売上ベスト3以上の結果を出していた。

水商売は、とても判りやすい程に売上が全てだ。

本社が高円寺にあったせいで、本社からの接待も受けた。

『家が新宿だから』と辞退したら、新宿で接待された。

水商売は、とても判りやすく売上が全てで、

私は、益々仕事にのめり込んでいった。


歌舞伎町も色んなお客様はいたが、

また違った意味で色んなお客様が多かった。

私がいた店は、キャバクラには珍しく『同業者OK』な店だった。

近隣店の店長さんや、従業員、土地柄か風俗関係者も多かった。

週5・6日ペースで来るお客様や、売れない画家、パチプロ・・・

様々なお客様がいて、私の知らない事をたくさん教えてくれた。


が、少し困ったお客様が1人いた。

いつも1人で来て、たくさん『場内』で女の子を呼んでくれて

なんでもオーダーしてくれるのだが、

30分に1回30分も、そこの席に着いていなければならないのだ。

開店から閉店までいて、暇な日や開店すぐは良いのだが

週末や給料日、指名が重なりまくってる日や

私が他のお客様と同伴した日などは困った。

『もう帰って』とお願いしたりしたが、帰ってはくれないのだ。

店の人は『出禁にする?』と聞いてきたが

それは私には出来なかった。

その困ったお客様は、忍ちゃんだったからだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る