第16話 夢物語

純ちゃんが入店してきた。

予想はしていたが、完全に私を無視していた。


そんな時、純ちゃんを紹介した女の子から

『話たい事がある』と誘われた。

内容は

貸した金は返してもらったのか?

何度も頼まれて仕方なく紹介したが純ちゃんとは距離を置きたい事。

自分も何度も借金を申し込まれているが断り続けてる事。

前の店から前借して踏み倒して辞めた事。

前の店の女の子数人からの借金も踏み倒してること。

ホストに入れあげ離婚しようとしている事。

子供を託児所に預けっぱなしで金も払っていない事。

誰も迎えに来ず託児所からの苦情が店に来る事。

旦那も離婚には応じているが、どちらも『子供はいらない』と言っている事。

ホスト通いが忙しく売り上げも落ち出勤しない日が増えた事。

雨月ちゃんが寮を追い出されるように仕向けたのは純ちゃんだという事。

そんな純ちゃんを店に紹介して申し訳ない。

でも、もう純ちゃんには、関わらない方がいい。

そんな感じの事だったと思う。


あぁ、そんな物なのか。

『何よりも1番大切』と言っていた者を捨てるのか

所詮、『1番大切』なのは自分か

と、勝手に純ちゃんに失望した。


幸い、店は大箱だったので同じ席に着くことはなかった。

もちろんマネージャーや黒服に『同じ席にしないでほしい』と頼んではいたが。

仕事終わりに、事務所でコーヒーを飲み帰ろうとした時、

掃除の始まった店内に純ちゃんがいた。

何も言わず通り過ぎようとした。

したが、できなかった。

純ちゃんは、電話中だった。

『これから行く。子供?どうでもいいよ』

気付いた時には、純ちゃんに掴みかかっていた。


純ちゃんに勝手に失望したのは私だ。

でも、許せなかった。


掴みかかりながら罵倒し続けた。

仲違いした時より裏切られた気がした。

何度も言うが

純ちゃんに勝手に失望したのは私だ。

でも、許せなかった。

何が許せなかったのかは、今もまだ判らない。


次の日から、純ちゃんは店に来なくなった。

当然、前借した給料を踏み倒して。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る