第14話 持つべきものは・・・

住処と職を同時に失った私は

とりあえず、安いビジネスホテルに泊まった。

さて、どうしたものか・・・と思いながら

ちゃっかり持ち出してきた『品物』を見つめながら

ビニールを握りしめていた。


翌日、お客様の1人に連絡し会いに行った。

彼は、不動産屋勤務だったので、

私でも入居できそうな歌舞伎町近辺の物件を探してもらった。

かなりビンゴな物件が1つだけあった。

場所は抜弁天。

あとは金を調達すればOKだった。

『金は明日、持ってくる』と契約書を結び

早急に入居できるように整えてもらった。


不動産屋を出て、すぐに忍ちゃんに連絡した。

彼はバイクが欲しいらしく、バイトに精をだし

60万近く貯金がある事を知っていたからだ。

何とか呼び出し、あとは口八丁手八丁で金を手に入れた。


入居できるまで5日あった。

どこで働こうかと、夜な夜な歌舞伎町をうろついた。

『う~づ~き~♪』

突然、ヤバそうな店の人に声を掛けられビックリしたが

よく見ると2度目の高校に居た人だった。

彼は、高校時代から『頭のネジが飛んじゃってる人』として

有名だった。

が、名前は忘れていた。

最後まで思い出すことが出来なかったので『ネジ君』としておこう。

名前を思い出せなくても、会話は出来るもので

その後も何度も会ったが、会話はいつもスムーズだった。


ネジ君は、近くのボッタクリ店を『先輩』とやらに任されているらしい。

相変わらずヤバ目の『品物』のモルモットもして、

そのディーラーでもあるらしかった。

職探しをしている事を告げると、自分の所にと申し入れがあった。

時給は破格で心は揺らいだが、相手はネジ君だ。

お断りしたが、変わらず優しかった。


帰り道、なんとなく通り過ぎた店が気に入って面接へ行った。

有り難い事に、その店も即採用してくれた。

最初の店が狭かったので、大箱の店にしたのが良かったのかもしれない。

その店は、慢性的に人手不足だったからだ。


住処も職も決まり、浮かれていた私だったが、

そこに最大の落とし穴が待っていた。

忍ちゃんだ。

たしかに金を借りる時に、返す気はサラサラなかったが『貸してくれ』と言った。

『たまになら泊まっていい』とも言った。

が、彼は私の住処に住み着いてしまったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る