第13話 寮生活

お気楽に怠惰に過ごした1ヵ月は

当たり前だが、すぐに終わりを告げた。


馬鹿は馬鹿なりに、今後の事も、薄っすらとは考えてはいた。

今まで、金がなくなった時に活用していた怪しげなバイトでは

とてもじゃないが生活していく事は出来ないのは判っていた。


仕方がないので応急的にバイトをしていた水商売へと

本格的に足を踏み出すしかないと思っていた。

家がないので寮と言う名のアパート付きで、初心者OKの店を探した。

ラッキーな事に、歌舞伎町の当時のナイタイ女王のいる老舗店に

入店する事ができた。

水商売事情を何も知らない私が1件目で入店できた事は

ラッキーだと思った。


が、ヘルプの知識のしかない私は、大いに苦戦する事になる。

今までのバイトの店とは違い、結果を求められることになる。

結果とは『自身の給料の3倍稼ぐ』というのが

最低条件だ。


私が入店&入寮して1週間もたたずして

新しい子が入店してきた。

その子は『純ちゃん』といい、年齢はあまり変わらず

寮も隣部屋となり、すぐに仲良くなった。

彼女は水商売の経験が長く、色んな事を教えてくれて

『場内指名』を入れ、私を助けてくれた。

もちろん彼女は、すぐに売れっ子になった。


今では、あまり珍しくはないが

彼女は既婚者であり、1歳になる子供がいた。

旦那さんは、別の住み込みで働き

家族3人が一緒に暮らせる日まで頑張ると断言していた。

苦しい状況でも、いつもニコニコしている純ちゃんが、私は好きだった。


今より当時は、深夜の託児所代は高く、

いくら純ちゃんの給料が良くても

生活はカツカツだった。


そんな中、純ちゃんから借金の申し出があった。

『どうしても託児所代が払えない』と言うものだった。

『たすけて欲しい』と。

金額は5万。

私は、迷った。


私がまだ地元に居た頃に複数人の友人だった人から

借金し、踏み倒してきた。

いわゆる『金の切れ目は縁の切れ目』と言う言葉を

自己都合で解釈し、大切な友人からは

ほぼ借りず、止むを得ず借りても縁を切られぬよう2週間以内に返していた。


金を貸すのは簡単だった。

『金を貸す時は、あげるつもりで貸す』という主義なので

返って来なくてもいいと思っていた。

だが、私は純ちゃんが好きだったので、

縁が切れてしまう結末になるのが怖かった。


迷ったが、

結局、私は貸してしまった。


イヤな予感は的中し、私は彼女と仲違いした。

理由は『雨月ちゃんが生意気』だった。

『場内呼んでもお礼がない』

『少し早く入店しただけで先輩気取り』

『自分の方が売り上げが良いからと妬まれる』等々・・・

私と純ちゃん、両方と仲の良かった子は、

それを鵜呑みにはせず、変わらず仲良くしてくれたが、

純ちゃんからの『場内』欲しさに沈黙した。


他の女の子や店長・マネージャー含め黒服は

それを鵜呑みにした。

『指名』もほぼ取れず、他からの『場内』も呼ばれず

ヘルプ周りばかりで、新規のお客様の席に着けて貰えなくなった。

当然、『指名』は増えることなく。


仕事帰りに『品物』を入手し寮のアパートへ帰る日が増えた。

当たり前だが休みも増えた。

そして、ある日、とうとう店長が寮まで来た。

もちろん私は、気を飛ばしていたばかりだったので

すぐに状況を理解はできなかったが、

早い話、

『今すぐクビ』

『10分で部屋を出て行け』

という事だった。

朦朧とする頭で、仕事道具と貴重品だけを持って

寮のアパートを後にした。


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