Zombie song

けろよん

第1話

 どこにでもある平凡な学校だと思った。

「メル・アイヴィーです。よろしくお願いします」

 メルは転校してきた。彼女にとっては転校などもう慣れたことなので今更特別なことを感じることはなかった。

 ミステリアスな少女の出現にクラスの人達は色めきたったようだが。男子は背筋を伸ばし、女子は頬を赤らめていた。

「それじゃあ、メルさんの席は……由香さんの隣ね」

「はい」

 先生に言われて、メルはその席についた。隣の席の住人はすぐに話しかけてきた。

「あたし、由香。分からないことがあったら何でも聞いてね」

「はい、よろしくお願いします」

 彼女は明るくおせっかいな性格のようだった。ともあれ、これから平凡な学校生活が始まる。

 そう予感しながら、メルは教科書とノートを開き、ペンを取り出した。


 この退屈な学校生活は、また転校する日まで続く。

 そう思っていた時期がメルにもありました。

 だが、変化は思ったより早くに訪れた。

 いつものように平凡で退屈な学校の授業を受けていた時のことだ。

「ウオッ、ウオオオオオッ!」

 いきなり教室のドアを突き破ってゾンビが入ってきた。その緩慢とした動きや腐った姿はそうとしか思えなかった。

 みんなはぎょっとしてそれを見る。

 メルもあくびをかみ殺して冷めた目でそれを見た。

 いたずらだと思ったのだろう。先生がゾンビに注意しに行く。

「何ですか、あなた達は! 今は授業中……うぎゃああああ!」

 緩みかけた空気はすぐに打ち砕かれた。

 先生が襲われて、さらに入ってきて数を増やしたゾンビ達が襲い掛かってきて、教室は一気にパニックになった。

「逃げなきゃ! 早く!」

「うん、そうだね」

 由香と一緒にメルは逃げた。学校中がパニックになっていて、他の人達がどうなったか、メルには分からなかった。

 二人で階段の隅っこの暗がりに逃げ込んで息を潜める。

 由香は震えて縮こまりながら耳を塞いでいる。メルは不思議に思って小首を傾げた。

「この学校では今、何が起こっているんでしょう」

「知らないわよ。そんなの。あたし達は友達だよね? ずっと一緒にいるよね?」

「はい、次の転校が決まるまでは」

「メル……うわあっ」

 安心しかける由香はすぐにまた耳を塞いだ。

 ゾンビの唸る声がする。それがメルには歌のように聞こえた。

「ゾンビは歌を歌う相手を求めているのでしょうか」

「え……」

「あなたを誘いに来たようです。わたしはまだ受け入れてはもらえてないようで」

「ああっ」

 由香は絶望に目を見開く。ゾンビが来ていた。由香のクラスメイトと先生だった。

「後は仲間同士でごゆっくり」

 ゾンビはメルには構わなかった。ただ由香に襲い掛かっていった。

「わたしはここでも、よそ者だったようです」

 由香の悲鳴とゾンビの歌を聴きながら、メルはその場を後にした。


 自衛隊は間もなく駆けつけてきた。町に溢れていたゾンビ達は汚物として消毒され、学校からは人がいなくなってただの箱物となった。

 ただ一人の生存者として救出されたメルは大人達から事情を聞いた。

 最近はゾンビが人気らしい。そう聞いた町の偉い人達はゾンビを研究して町おこしに利用しようとして失敗。結果として町にゾンビが溢れたらしかった。

 ゾンビが町の人達にしか襲い掛からなかったのも、町民が一体となってゾンビで町おこしをしようと企てた町の人達の精神の表れだったのかもしれない。

 ともあれこの町にもうゾンビはいない。ただゾンビが溢れた町として記憶に残るのみだ。

 その記憶もすぐに風化する。伝えられるのは記録と歌だけだ。

 メルは人がいなくなった校舎内を歩く。ずっと続くと思っていた日常。それはこうもあっさりと崩れるものだったのか。

 もうすぐまた転校しなければいけない。この場所も見納めだ。メルは教室を見る。

 ゾンビの歌が聞こえる。

「メル……アタシノトモダチ……」

 残していくものなんて何も無いと思っていたけど、ここで出来た物はあるようだった。

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Zombie song けろよん @keroyon

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