世界が終わる予感がする。

電車の座席の隅っこに座っているとき。時間潰しにコンビニの中を当てもなくふらついて結局なにも買わないまま出て行くとき。眠気に襲われてうとうとと瞼が降りては開くとき。休みの日に布団の中で惰眠をむさぼるとき。晩ご飯のお茶碗に入った白米の最後の白米を食べたとき。お腹をへこませるだけで胃がぐるぐると空腹の音を立てるとき。誰かの指が自分の甲に触れたとき。誰かの腕に触れたとき。いつだってふとした瞬間、世界が終わる予感がする。だけどそんなときは来ない。世界は終わらず時間は止まらず胃の中の食事は着実に消化される。そもそも世界が終わるというのがどういうものなのかも、よくわかっていない。みんなが消えていなくなること? 真っ白になること? 何もかも無くなること? 自分が死ぬこと? わからない。でも予感がする。形のないただの感覚が、頭と目の間にやってくる。ぼんやりしたもの。ふわふわしたもの。なまぬるいもの。

それは孤独だと誰かが言った。それは虚しさだと誰かは言った。それは幸せだと誰かは言った。それは君にしかわからないものだと、あなたは言った。「世界が終わる予感がした」というのはなんとも語呂が悪い、とも。そうだね。「が」が続いているからね。そうした、ひどく正しいことを述べることはあなたは得意だ。求められた答えを捻り出すのが得意だ。そんなあなたが羨ましい。恨めしい。妬ましい。あなただってわかっているくせに。それは多くの人が持ち合わせているものだ。みんなそれほど特別じゃないんだ。わかってるよ、言葉にしたくないだけだよ、負け惜しみだよ、あなただって同じくせに。あなただって持ち合わせているくせに。ねえ、だって、知っているでしょう。それはいつだって、何も変わらずに続いていく。

世界が終わる予感は、どうせ、世界が始まる期待だ。

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