エピローグ

 俺はノ割と付き合う事になった。

 終わり。


 まぁ、これだけだと味気ないので、いくつか付け足し、補足しようと思う。


 チャンネル登録者は未だに増えないし、再生回数もパッとしない。

 例のグラビア雑誌はすぐに見つかり、母親に「のいちちゃんに嫌われるよ」と処分された。

 動画のネタだったのに。

 この動画がヒットして、俺もトップYouTuberの仲間入りだと幻想を抱いたものの、それは本当に幻想であった––––全く上手くいかないね。

 それでも俺は相変わらずYouTuberを続けている––––自称だけど。


 コメントは、結構返信したりしてる。

 ノ割はコメントはしてくれないけれど、直接感想を言ってくる。相変わらずキツい言い方だけど。


 まぁでも、俺を思って言ってくれてるのだから素直に受け止めている。


 姫先輩は姫先輩で相変わらずである。毎日気怠げな表情で、マヨネーズを飲んでいる。

 時々、あの独特な調子でお話しをしてくれる。意味は分からない事が多いけど、楽しい時間ではある。


 それと、やめようとは思ったのだけれどあの事を聞いてみた。


「『ユーチュー部』って名前、姫先輩が考えたんですか?」


「いや、それを考えたのはノ割だ。私は申請をしただけだ––––今年の四月にね」


 そういえばテルさんもそう言っていたな。申請したからと言って、考えたのは姫先輩とは限らないって事か。

 というか、ノ割のやつ「ユーチュー部があるから、この高校にした」って絶対嘘じゃないか。

 だって、今年の四月に出来て、それはあり得ない。時系列がめちゃくちゃだ。タイムトラベラーか。

 というか、ノ割が「ユーチュー部」って考えたのか……もう少し、なんとかならなかったのかな。

 まぁ、どうせ俺も似たようなセンスだし、黙っていた方がいいかもしれない。

 それと、姫先輩は最初から事情を知っていて、協力していた事になる。


「姫先輩は全部知ってたんですか?」


「あぁ、知っていて役割を演じたまでさ。一度は物語の登場人物になってみたいと思っていたのさ」


 相変わらずな人である。自分を物語の登場人物なんて言う人は、ある意味恐ろしい。


 シェンカちゃんは、時々変なタイミングで何が面白かったのかは分からないが、ウケている。

 その笑い顔は天使である。あんまり見過ぎるとノ割に怒られるけど、それが嫉妬なのか、それともシェンカちゃんを守るためなのかは不明だ。


 テルさんは、飛んでいる。頭のネジが。

 尊敬する人になんて言い草かと思われるかもしれないけれど、未だにラジコンで飛ぶ事を諦めていない。

 まぁ、そこがいいんだけどさ。


 そして俺、春日千草。


 結論から言って、さらにまとめてしまうと、俺の物語は、やはり「ノ割と付き合う事になった」の一文で終わる。

 小説で例えるなら、ここだけ見ればこの小説の内容は分かる––––みたいな。

 まぁ、結果はどうあれ中身が大事とも言うわけだけど、全部仕組まれたものだったからなぁ。

 その計画者曰く、


「そんな事ないわよ、最初から計画倒れだったわ––––遅刻したじゃない」


 と、言っていたけど。さらに、


「それからあたしの予定では、ハルのチャンネル登録者はそろそろ一万人の予定だったのだけれど、上手くいかないわ」


 それは残念だ––––本当に、本当に残念だ。はぁ、溜息。


「まぁ、可愛い彼女が出来たと思えばいいじゃない」


「自分で自分の事を可愛いって言う奴の事を、日本では可愛くないや––––」


「可愛くないの?」


 俺の小言は遮られ、ノ割に顔を除き込まれた。

 あー、はいはい、わかってますよ。


「可愛いぞ、ノ割」


「そう、ハルも結構カッコいいわよ」


 これが俺の日常だ。


 退屈だっだろ?

 普通だったろ?


 だがそんな日常でも、人によっては羨ましくもなったり、いいなぁと思ったりするものらしい。

 ほら、妹がいるのいいなぁーみたいな。

 妹がいる本人としては、別に普通だろってなるんだけど、妹が居ない人からすればそれは非日常的な事となる。


 日常的な事が非日常的な事となる。


 人は一人称でしかものを考えられない。


 そして、人は馬鹿だからそれを時々忘れてしまう。


 頭の片隅にはあって、そんなの当たり前だろと思ってはいるのだけれど、片隅にあるからって出てきてくれるわけではない。

 姫先輩は口癖のようによく言っていた。


「それはひとつのモノの見方に過ぎない」


 俺のこのふざけた話も俺からみたらただの日常に見えるのだけれど、きっと他の人からみたら、案外非日常的に見えるのかもしれない。


 最後に、あの質問に答えよう。


 宝くじと、地球最後の日だ。


 俺の答えは、そんなくだらない話をしているこの日常がとても楽しい、だ。


 もしもの話を、楽しく話せる何気ない日こそ、実は後になってみれば、楽しくて、思い出深いものだったりするものだ。


 先程も言ったが、あえてもう一度同じ事を言おう。


 俺の日常は俺から見ればただの日常かもしれないが、側から見れば––––案外日常では無いのかもしれない。

 もし違うと言うのなら、もしも俺の日常が、ただの日常でないとするのなら、それは俺がラノベ主人公だからなのではなく、君がラノベ読者だからかもしれないな。

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バーチャルYouTuberが現実世界に現れたらどうしますか? 赤眼鏡の小説家先生 @ero_shosetukasensei

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