第16話 族長の決断の前にCM入りまーす

 うん、なんというか凄く恥ずかしいことをしてしまったなと思う

 だって人がいっぱいいるところで大声で泣いたんだぞ

 それも女の胸を借りてだ、なかったからよかったけども

 ここが異世界でもやはり周りの反応は変わらない

 さっきから俺に向けられる視線は痛い、しかし先ほどよりはどこか話しやすい状況にはなったと思う

 アルネシアは涙で濡れた服を嫌悪感丸出しで乾かしていた

 傷つくから俺のいないところでやってほしかったな

 だが彼女のおかげで場の雰囲気から逃れることができた

 涙を拭き前を向く


「はぁ、仕方ないか」


 立ち上がり老人族長の前に立つ

 不思議だ、今なら何でもできる気さえする


「見苦しいところを見せました、謝らせてください」


 と頭を下げる

 時間を取らせたのだ謝罪は必要だろう

 社会人の常識である


「ふん、全くだ、貴様何を考えている」


「何も、と言いたいところですけど、一つだけ」


 周りを見渡す

 そこには俺たちを取り囲みようにこちらを見ている犬耳族の住人

 その視線に思わずびくりと震える


「本当にお前ら無様だな、俺もここに来るまでお前たちのことを聞いていたがここまで愚かだとは思わなかった」


 俺は大声で皆に聞こえるようにそう言い放った


「なんだと!!」


「ふざけるな人間が!!」


「今すぐ殺せ!!」


 周りから怒号が聞こえる


(あーあ―何も聞こえなーい)


「貴様、今の言葉どうゆうことだ」


 老人族長はその言葉が気に入らなかったのか耳を逆立てていた

 護衛の二人、いや一人が牙をむき出しにし完全にご立腹だ


「言葉のまんまだよ、分かんないのか? お前らは何もしないでただ人間族から逃げるように生きている弱虫種族だってこ――」


「黙れ!!」


 言葉を遮ったのは護衛Aの茶色のやつだ。剣を抜き刃が俺に触れる直前位置まで距離を詰めていた


「何もしないで逃げただと、ふざけるな!! 逃げているわけではない俺たちは日々力を蓄えている、いつか絶対に人間族から奪われたもの取り返すため、俺たちの覚悟を馬鹿にするな!!」


 首元をつかまれその距離は十センチもなかった刃もまた首元にあてられたまま

 殺されるかもしれないと体は正直におびえていた、だが今は逃げ出せない理由ができていた

 俺は必死に言葉を絞り出した


「覚悟、はっ、わらわせるな、その覚悟のせいで何人怪我をした、何人死んだ。そのいつかのためにあと何人、何十人犠牲にするつもりだ」


 突きつけられた剣を素手で握る

 その手から血が流れる

 痛いけど我慢だ

 さっきまで騒がしかった犬耳族たちは一気に静かになる


「人間族に対抗するためには必要な犠牲だ、俺たちは犠牲になった者たちの願いも背負って生きているんだ!!」


 その言葉に笑いそうになる

 奴が言ったのは身のない言葉に鼻で笑った


「必要な犠牲? 聞こえはいいよな? でも結局は現実逃避だろ? そんなのくそくらえだ、この世に生まれた以上無駄な命なんて無いんだよ!!!」


 護衛Aを突き飛ばし俺は上から見下ろす


「何度敗戦を繰り返しても学ぶこともなく繰り返し犠牲を増やすばかり、だから人間族には勝てないんだ、わからないのか」


「何も知らないくせに勝手に知ったように語るな!!」


「そうだな、俺は今日お前たちを見てそう感じただけだ、だが事実だろ、周りが証明している、なあお前ら俺が憎いか、殺したいか? ――別に言わなくてもいい、目を見ればわかる、わかるんだよ、だから言っておくここで俺を殺したらお前たちは絶対に後悔することになる」


 これは挑発だ

 できるもんなら殺してみろよ、そのあとどうなってもいいならなっていうな


「後悔だと、どうゆうことだ」


 護衛Aが聞き返してくる

 言葉の意味が分からないって感じだ

 こいつは本当に何も考えてなく感情で動くタイプだ


「ふむ、貴様なら我々犬耳族をいや亜人と呼ばれるこの連鎖から救えるというのか」


 俺の前方、老人族長が聞いてきた

 相変わらず俺の事はにらんでいるが聞いてきたということは多少は興味があったということか


「さあ救えるとまでは言わないが、俺なら数年あればお前たちが自由に暮らせる場所を用意してやる」


 自信満々にそう答えた

 俺ならできる、犬耳族にそう聞こえるように大声ではなす

 まだだ、俺の勝負はまだ終わってはいない


「大した自信だな、誰にもできなかったことが貴様ならできるとそういうのか」


「できる、俺には直接戦う力はないがそれさえ手に入れることができれば実現できる」


「だから犬耳族の命運を貴様に預けろとそういうのか、人間」


「少なくともお前のような無駄なことはしない、命は限られている、俺は誰一人無駄にするつもりはない」


「貴様は儂が無能だというのか、儂がやったことは犬耳族にとっては無駄だったとそういうのか」


「そうだな、まず前提条件に逃げが入っているこの時点でお前たちが人間族に勝てる可能性なんてないんだよ、お前たちは避難に回した人たちにも別の一手を打たせるべきだった、そうすれば助かる命だってあったはずだ」


 ただ、と言い老人族長に向け指をさす


「族長としては間違ってはいない、種の存続それだけを考えたなら、一番妥当な考えだからな、ただワンパターンすぎるのが問題なんだ、同じ行動を繰り返せば人間はすぐに学び対策してくる、一手一手に意味を持つ行動をしなければ意味がない」


「......確かに貴様の言うことはもっともだな」


 その言葉に護衛Aが声を荒げたが手で制止させた

 さすがは族長といったところか護衛Aはすぐに黙った


「だがそれはそれだ、今の問題点はそこにない、問題は貴様が人間だということだ、我々が人間族を恨んでいるのは知っているだろう、人間の下につくわけにはいかない」


 まあそうだろうな、だけどなその考えは間違っているぞ


「俺は一言でも下につけなんて言ってはいない、俺はお前らに無理やりいうことを聞かせるつもりはない、気に食わないことがあったら言ってくれてもいい、俺はいつだってその話を聞いてやる」


 老人族長は一瞬何を言っているのかわからなかったようだ


「貴様、自分がおかしなことを言っている自覚はあるか」


 なんだ急に俺の頭がおかしいだって、切れるぞ

 そういう意味ではないんだろうけど


「俺は人間族ではなく日本人だからな」


 自信満々にそう答えた

 俺はこの世界の人間ではない、いうなれば違う種族だといえるのかもしれないと思った


「はっはっはっはっは、なるほど貴様は人間族ではないと、よかろう、貴様の名は何と言ったか」


「高坂 連」


 短く名前だけ伝えた


「高坂 連、いいだろう犬耳族長ワンダフル・ワンダ・フルールは協力すると誓おう」


 やばい......わらうな、ここで笑ったら全部だめになる

 大体名前おかしいだろ、みんなおかしいと思わないの?


「あ、ああ」


 手を出されたので握手する

 周りからは非難の声が聞こえてきたがそこは後々だ

 とりあえず、なんとかなったか

 アルネシアのほうを見ると満足そうにうなずいて肩に手を置いてきた


「よくやった」


 と言われた、上司かよ

 後ろには白色の体毛を持った犬耳族がなぜか泣いていた


「うっ、うっ、まさか僕たちのためにそこまでしてくれるなんて......」


 ぶつぶつずっと何か言っており近づかないほうがいいだろう


「アルネシア様、何とかなりました、あとでご褒美が欲しいですね」


「さっきみたいな話し方はどうしたの」


「ご主人様にそんな失礼できないですよ」


「帰ったら、お父さんに頼んで奴隷魔法を解除してもらうからもういいのよ」


 え、今なんて言った


「今なんと?」


「もう普通に話してもいいって」


「その前です」


「お父さんに頼んで奴隷魔法を解除してもらうって、私には解くことができないの悪いわね」


「駄目です、絶対にやめてください」


「どうしてよ、奴隷魔法から解放されたら自由になれるのよ、いいことじゃない」


 おかしいでしょう、俺が誰のために頑張ったと思うんですか

 何もわかっていない


「いいですか、奴隷ということメリットなんです、まず解除しない限り他の奴隷魔法にかかることはない、つまり僕は一生アルネシア様の奴隷ということです、そして何より他の亜人の交渉にこの奴隷という点は利用できる、少なくとも危険性は減ることが今回の事で分かったでしょう」


「最初のはともかく、最後のはたしかにそうね、わかったわ、連がそれでいいなら私はいい」


 奴隷から解放されるかもしれない、危ないところだった


 まあそんなこともあり俺はその後ゆっくりワンダフルと今後の方針について話し合いを行った。

 そこになぜか白い体毛の犬耳族のシアンという犬耳族がいた

 彼は次期族長なのだと紹介してもらった

 こいつがかと不安に思ったがこれが驚きの優秀なのだ、きっちり問題点を上げそれの改善案を出してくる

 いやはや僕は君の事を侮ってきたよと言ったらあなたには負けますよだってよ、褒め上手だな

 結果は犬耳族が今の拠点を捨て黒龍の洞窟付近に新しく村を立てることになった

 エルフ族と一緒に住めばいいやんと思ったがそうはいかないらしい

 種族的問題はいろいろあるんだなぁと思う次第だ

 何はともあれ後は帰るだけだ

 犬耳族の住人にも準備があるのでここを出るのは1週間後になる

 帰ったらあの野郎ファフニールになぜ来なかったか説教に一つでもしてやろうと考える


 この時はあっちで何が起きているかなんて考えもしなかった

 



 

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