第6話 限界値が近いので本気出します

「いいだろう、時間をおいて出直そう」


 エルフの男はそう言い残し外に出て行った

 扉の前にはさっきのエルフとは別のエルフがおりおそらくここの警備をしているものだろう

 ここで簡単にはここを出ることはできなさそうだと思う

 だが何とか時間を作ることができたので俺は再び光の差さない部屋の中で考える

 あの場で頷きエルフ族の男の提案を飲んだ場合

 俺は自由の身となりここを出ることができる......かもしれない

 しかしそれが口約束なことを忘れてはいけない

 何も保証をされてもいない口頭だけでの契約などあまりにも価値がない物だ

 あの男言葉一つ一つにかなりの時間をおいていた

 それ故にあの男の事はどうしても信用できない

 本当にそれだけなのか、もしかしたら安心させたところを狙うつもりではないのかと

 今の俺は弱い立場にある、あの黒龍の名前がなければとっくに殺されていただろう

 長く話を続けているとぼろが出ていつばれてもおかしくない 

 考えれば考えるほど不安は募るばかりだ

 何を考え何を求めてあいつはあの提案をしたのか

 その真意さえ見抜ければ見抜ければいいのに


「この世界のことなんて何も知らねぇよ......あいつの事情もこの世界の常識も何もわからねぇよ」


 黒龍から追いかけられ何とか逃げられたのにこの仕打ちだ

 大体あのエルフの女に見つからなかったらこんなことになっていなかったのに

 いや確かに人型の生き物に会いたいとは言ったよ

 でもさ、いきなり攻撃されて罵倒されるなんて思わないでしょ普通

 せめてさもう少しもう少しだけ話を聞いてくれてもいいでしょ

 だがあの女が俺に対する態度がやけに鋭かったような

 あの黒龍に追われている間に建物何て見かけなかったけどな

 ならエルフ族は人間と敵対していると考えた方が妥当なのかもしれない

 いやそれは早計かさすがに安直すぎる

 普通に黒龍から逃げているときに黒龍が放った攻撃に巻き込まれたとかそんなのだろうな

 黒龍から聞いた話に役に立つ情報など一つもなかった

 何が美味しいだとかこの周辺は安全だとか

 あの黒龍から一言もエルフという単語は聞けなかった

 聞いていれば別の行動をとれたなど後の祭りなので今は良しとしよう


「あの発言の意味はなんだ、ただ聞いたにしては不自然すぎる」


 あの男からは少なからず敵意を感じなかった

 ならあの発言には何らかの意図があったはず


「そうか......」


 ならば俺の導き出せる答えを一つだけだ



「どうした? 世界に絶望したような顔をして、答えは出たのか不安だな」


 そう聞いてきたのは先ほどのエルフの男だ

 いつ来るかもわからなかったのでずっと起きていたのだがおそらく3時間は待たされただろう

 もはや一生来ないかとも思ったぐらいだ

 立ち上がろうとすると体中に痛みが走る

 硬い壁に腰を預けていたのが原因だろう


「安心していいですよ、答えは出しました」


 文句は言いたかったが今はそんな場合ではない

 痛みを我慢しながら何とか笑みを浮かべ答える


「それはよかった。なら聞かせてもらおうか」


「その前に一つ聞きたいのですが、なんであなたは先ほどからずっと右腕を隠しながら話しているのですか」


「別に意味なんてないさ」


「ここであなたを殺すということはないので安心してください」


「......なるほど、この状況でも周りを見るぐらいの冷静さはあるのか」


 エルフの男は悪びれることもなく右手に持っていたナイフをみせる


「なんで僕がこれを持っているのかわかるか?」


「警戒......いや最初から殺す気だった、おそらくはそんなところでしょう」


「そうかもしれないね、君はそれほど僕たちにとって危険だということだ」


「でもあなたはその危険性を利用したいのではないのですか?」


「なぜそう思う?」


 その顔が一瞬笑った気がした


「言ってもいいんですか?」


「構わない」


「僕の持つ戦力はあなた達の敵を抑制するのに最も有効的な手段であるはず、なにせこの世界の頂点に立つ生物、そんなもの誰も相手にしたくないでしょう」


「ならなおさら君をそばに置くことは僕たちにとって危険だろう、寝首を掻かれては元も子もない」


「それでもあなた達はこのまま無視できないでしょう」


「ああ、だからあの提案をした、君は僕たちにかかわらないとね」


「それを守るほど僕は優しくはないですよ」


「......それはここを......エルフを亡ぼすということか?」


 男の口調が変わった


「ここで約束しても絶対順守なんてありえない状況が変われば口約束なんてすぐに破られる、あなたにはわかっているはずですよ」


「確かに、だが君の考えが読めないな、なぜそのことを今ここで話した、君に利点がるとは思えないが、目的はなんだ使役者」


「僕ができることは一言でいうならそれだけだから、ここで生きるためには互いに助け合う必要があると感じただけです、それなら僕はなんだってする覚悟はある」


「なるほど君は訳アリのようだね、それで僕たちとともに戦ってもいいとそう受け取ってもいいのか」


「そう受け取ってもらって構いませんが戦力を貸すからには一つ条件があります」


「条件?」


「僕が今一番欲しいものをあなたたちに提供してもらいたいのです」


「......言ってみろ」


「情報、それが今一番欲しいものです」


「......情報? それはどういうことだ、君は一体なんなんだ」


「あいにくこの周辺の事象に疎いので僕はあなた方が抱えている問題もこの周辺で起こっていることも全くわからないのですよ、だから僕が今一番欲しいものそれはこの世界の常識です」


 エルフの男は発言を聞くなり黙り込んだ

 相手もこちらの心情わからない上、うかつには殺せない相手だ

 それ故に今回の話し合いにおいてはこちらが優位に立っているといえる

 それもあのはったりのおかげなんだが


「話は分かった、少し考えさせてくれ」


 と言い残し部屋を出て行ってしまった




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る