永久健康保険のきびしい取り立て!

ちびまるフォイ

痛みのある理由

【健康第一】と書かれた保険会社にやってくると、

いやに愛想のいいグレイ宇宙人が出迎えた。


「やぁ、いらっしゃいませ。地球人さん」


「えと、友達の紹介できたんですけど」


「伺っていますよ。永久健康保険のご契約ですね」


「それってなんですか?」


「フフフ。我々の不死技術を地球人の

 みなさんにも体験してもらおうと始めた全く新しい保険ですよ。

 まあ、とりあえず入ってください。初回無料なんで」


「その言葉が一番怖いですよ……」


体験用紙にサインをすると、宇宙人は人差し指を出した。

その人差し指に光がともる。


「あ、これ映画で見たことあるやつ!」


喜んだ矢先、指先から鋭いレーザーが照射され、眉間を貫通した。


「がっ……!」


レーザーは脳を貫通し、後ろの壁にも風穴を開けた。


「……あれ? 死んでない?」


「これが永久健康保険です。保険に入っている限り、

 あなたはケガや風邪はおろか死亡すらありません」


「最高じゃないですか! 申し込みます!」

「アリガトウゴザイマス」


窓口を出ると、いきなり「転生」と書かれた運送会社のトラックが突っ込んできた。

ノーブレーキのトラックに跳ね飛ばされて地面に叩きつけられる。


「おいあんた! 大丈夫か!?」

「ええ、ぜんぜん大丈夫です」


体操選手のようにポーズを決めて立ち上がった。

健康保険に入っているのでどんなケガも体に跳ね返ってこない。


「健康第一って本当だなぁ、わっはっは!」


それからも常に自分の体は絶好調の状態をキープし続けた。

どんなに寝不足になっても、膝に矢を受けてもぴんぴんしている。


「お前すごいなぁ……こんなにインフルエンザ流行っているのに……」


「ハハハ。俺は健康をキープすることを第一に考えているからね!」


風邪で咳き込む同僚を見ながら健康のすばらしさを熱弁した。

そして、永久健康保険に入ってからはじめての支払いがやってきた。



「高ーーい!! なんですかこの法外な料金は!? 詐欺か!?」



「イエイエ。永久健康保険のまっとうな金額ですよ。

 金額の内訳はここに書いてあるとおりです」


「全治2ヶ月の骨折で5万、インフルエンザで2万……。

 これ、どういうことですか?」


「うちの料金は、ケガや病気の分だけ支払額が多くなるんです。

 あれだけ事故ったりしたら料金が上がるのも当然でしょう?」


「聞いてないよ!!」


「実際にケガをして、病院にかかりつけになって、働けなくなるより

 こうして健康をキープできて、働きながら返済できる方がいいでしょう?」


「おのれアコギ星人め……」

「健康に代わるものなんてないですよ」


その時は支払いを済ませたものの、すでに俺の財政には大打撃だった。

すっからかんの財布を眺めながら歩く帰り道。


前の方から「転生」とプリントされたTシャツを来た人が

どういうわけかナイフを持って走ってきた。


「どけやぁぁぁ!!」

「えっ、ちょっ……!」


どん、とお腹に衝撃を受ける。見事にナイフが突き刺さっていた。

頭の中でチャリーンとお金の音がする。


「ああ……これでまた次の支払額が増える……」


すでに完治していないケガぶんの支払額が積もっているのに、

そのうえまたケガをしてしまえば、いつまでたっても払いきれない。


必死に働いてお金を稼ごうにも働くほどに健康は害される。

風邪をうつされ、睡眠不足になり、体は疲労して、支払額は釣り上がる。


「身も蓋もねぇよ!!」


そして俺は最低額の支払いにするため、働くのをやめた。

次の永久健康保険の支払日。


「って、めっちゃ増えてんじゃないですか!!」


「精神面での健康もサポートしています。

 永久健康保険に入っている限り、うつ病もPTSDも心配ないですよ」


「こんなの払えるかーーい!!」


さすがに我慢できなくなり契約書をその場で食べきった。


「永久健康保険なんて解約だ、解約!

 健康をキープできても、こんなに金かかるんじゃ意味ないよ!」


「しかし、今解約するのはおすすめできません。

 あなたには重篤な病気があり、それを保険でカバーしているのです」


「……そうなの?」


「今解約すれば、あなたの病気は一気にあなたの体に跳ね返ります。

 解約するにせよ、もう少し時期を見てからしたほうが……」


「そう言われれば……」


決心が揺らぎ始めたのに気づき、慌てて自分を律した。


「いやいやいや!! そうやって、また支払いを続けさせる気でしょう!

 骨の髄まで吸い尽くそうという顔をしているぞ!!」


「あなたのためを思ってです」


「そう思うんならもっと安くせんかーーい!!」


おもちゃを買ってもらえない子供のように

床で寝転がりバタバタあがいた結果、見事解約にゴリ押しができた。


「くれぐれもお気をつけて……」


窓口を去っても、とくに体の異常はなかった。

事故の痛みもないし、体も以前と変わりない。


「なーーにが重篤な病気、だよ。

 やっぱり嘘ついて俺から金をせびろうとしていただけじゃないか!」


文句行ってやろうかと振り返った瞬間に、目の前が暗くなった。


 ・

 ・

 ・


路上に転がる男を見て、医者は顔を横に振った。

男の体はバッキバキに壊れ、内臓も破壊されていた。


「……死んでいますね。

 病気が戻ったことで、体が壊れてしまったのでしょう。

 こんなになっても自覚できなかったなんて……」


「ですか……」


元顧客の男を見て宇宙人はうつむいた。


「"病気に気づけない病"ほど、重篤な病気はないですね……」

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