第20話



※短編です。


――――――――――――――――







「ふぅ……。楽しかったよ」

「それは良かったです」


 午後5時。なんと発音が〝ご〟の文字が3つも並んでいる。

 まぁだからなんだって話ですけど……。


「君から誘われることなんてほとんど無かったから驚いたよ、どうしたの?」

「いつもの恩返しです。朝食を作ってくれたり、掃除をしておいて貰っているので」


 これは、事前に決めておいた返し。

 彼女のことだ。というよりも、世間一般かもしれないけれど、普段何もしない人が急にデートなんかに誘えば怪しまれる。


 その質問を予期していれば、回答するのに何ら問題は無い。

 完璧な作戦だ。


「そう、ありがとう。でも、私が勝手にやってることだし、君はいつも私に早く帰ってほしいって言ってるじゃない?」

「い、いえ……それでもやっぱり、助けてもらってるからね」

「そう、やっぱり君は優しいわね」

「……あ、ありがとう」


 か、完璧な、作戦だ。


「それで、本音は?」

「か、完敗です……」

「ふふっ……どうしたの? 急に。私はただ質問してるだけだよ?」


 猛攻撃に対して耐えられた時間、四〇秒。なんて情けない数字だろうか。


「どこかに出掛けようと考えて、それだったら君も一緒にどうかな、って思っただけですよ」

「そう……ありがとう」


 嬉しそうな顔。上機嫌な顔。

 僕の心臓をいとも容易く跳ね上がらせる凶器。


(でも、今くらいは……)


 彼女に一言伝えるために、ちょっと頑張って心を込めてみる。


「僕も、日頃……ありがとうございます」


 満面の笑みと、それから少し赤い頬で、そう告げた。

 僕より少し低い所にある彼女の顔が、咄嗟に背後を向く。バッ、と擬音が付きそうな程の速度で後ろを向いて、それから肩を震わせた。


 その耳が、真っ赤に染まって夕焼けみたいになっているのが、面白い。


「それじゃあ、帰りましょう」

「……ま、待ってっ!」

「はい?」


 帰ろうとしたところを、彼女から停止のご命令が。

 振り向くと、何かを決意したような表情で、僕を見る彼女がいた。


「私の言うこと、聞いてもらうよ。次の質問に、絶対に正直に答えてね?」

「? はい、わかりました」


 小さく、彼女は息を吸った。

 タイミング良く、沈みかけの太陽から、日光が照らす。夕焼けの空みたいに赤く染まる顔。


――え……?


 

 その、顔って。





「君は最近、私に丁寧な言葉遣いになったよね。優しくなったし、前よりもすぐに恥ずかしくなるようになった。感情が行動に出るようになったし、自主性も出てきた」


 目の前の


「君は、ダレなの……?」



 ボクは――。

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学校トップの美少女である彼女が僕の世話するのは日常と呼べるか否か。 抹茶 @bakauke16

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