第15話




 はいそれでは行きましょう。

 

 なんて、簡単に言える訳でも無く、彼女は焦るように家に帰っていった。残された僕は僕で、出掛ける準備だ。

 休日なのは世間でも同じだから、水族館に関しては予約が必要だろう。さすがの僕でも、水族館が混み過ぎることは理解出来る。


「えっと、***-***-****」


――プルルル プルルル


 小刻みに鳴る、心地の良い音が部屋の中を木霊する。混雑しているかなぁ、なんて思いつつ、僕は受話器を耳に当てる。


「―――――――――ッ、はいもしもし。アテラ水族館受付窓口です」

「はい、予約がしたいのですが」


 繋がった先は、女性の声と共に同じような声が近くから聞こえていた。どうやら、ほかの誰かも予約を入れているらしい。


「人数は何人でしょうか?」

「えっと…二人でお願いします」

「カップルで御座いますか?」

「え…………と、それは何故お聞きに?」

「現在、祝日のためカップル様には料金の割引が開催されていますので、ご予約の際に割引させて頂けるのですが……」


 どうしようか。

 そう思っていると、スマホに一通の連絡が。


――『私たちって、カップル、かな……?』


 返信しようとする手が止まる。それは、今僕が考えていたことと見事に一致する内容なのだ。


―『どうでしょう? 君はどうしたいですか?』

――『』


 既読は付くけれど、返信が来ない。やはり、彼女であろうと値段かプライドかの天秤は難しいのだろうか。

 僕としては、勿論の如く割引してほしい。カップルとして歓迎されるのはかなり痛いけれど、僕の軽過ぎる財布に代えられない。それに、彼女とカップルに見てもらえるのなら……なんて。


―『悩むのでしたら、普通料金にしましょうか』

――『わかった! カップルにしよう』


 何がわかったのか僕にはわからないけれど。


―『本当に大丈夫ですか?』

――『平気よ』

―『わかりました。では、それで』


 既読がつくと、返信は来ない。急いでいるのは僕も同じだった。


「もしもし?」

「――――ッ、はい。カップルで御座いますか?」

「それでお願いします」

「承りました。それでは、氏名と二次コードを教えて頂きたいのですが」

「神野誠也です。二次コードの説明をお願いできますか?」

「あ、はい。二次コードとは、ご予約の偽りのなさらないよう、本人確認のための自由コードで御座います。教えて頂いた言葉を受付に話してくだされば、本人確認の完了となります」


 中々にしっかりとした仕組みだと思う。普段、僕はセキュリティなんてあまり関係の無い生活をしているので、わかりやすい説明で助かった。

 機械自体、そこまで得意では無いのだ。


「では、******でお願いします」

「わかりました。それでは確認致します。ご予約は二人のカップル様で、氏名は神野様。二次コードは******で宜しいですか?」

「はい、お願いします」

「はい、承りました。一九時までのご利用となります」

「はい、ありがとうございました」


 予約が終わった。残るは、準備のみ。

 僕は私室に戻り、手ごろなハンドバックに適当に財布とスマホを詰める。部屋の中を見渡すけれど、私物はほとんど無い。

 唯一、ハンカチなどを入れることを除けば、荷物など無いに等しかった。


(何か買ったほうが良いかもしれませんね)


 そう思うのはいつものことで、結局行動しないのもいつものこと。

 だらしないなぁ、なんて頭の隅で考えつつ、僕は彼女が来るのを待った。



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~後書き~


 皆様、明けましておめでとうございます!大晦日の特別番組ということで、私はガキの使いを見させて頂きました。とても面白かったです。

 さて、具体的なことは近況ノートで報告致しますので、この場を借りまして一言。


 今年も、宜しくお願い致します。


 私も、精進できるように頑張りますよっ!

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