Lost his memory. Another oneself. ①


 


 人という人間が、案外脆い存在だと気付いたのは、が12歳のときだった。


――否。気付かされたのは、それよりもずっと前だったと思う。

 けれど、その事実を心の底から拒絶し、ひたすらに俺自身の望む最高の姿を見ようとしていた。

 それは、ひとえに俺自身が、酷く幼かったからなのは明白だけれど、きっと本当は違う。


 信じたかった。信じていた。だから、破壊に耐え切れなかった。





 



 

 それが、いつの日だったか、もう忘れてしまった。

 ただ覚えているのは、鬱陶しいほどに太陽が燦燦と照る日だったこと。


「死ね」

「え・・・・・・・・・・・・・・?」


 単純な一言だった。

 たったその一言に全ての感情が込められていて、その時の俺にとって一番理解するには遠い言葉。

 まるで現実ではないかのように、日常で聞くことの無いその言葉は、当時の俺に絶対的ないましめを植え付けた。


 大きな男――実の父親――の迫りくる手には、見慣れた家庭用の小さな包丁凶器が握られていた。

 その小さな刃でさえ、俺の体はいとも容易く切り裂け、その瞳に刻まれた狂気に潤いをもたらすだろう。


「あ・・・・・・・・・え・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・?」


 声が、出なかった。

 必然にして絶対の、生まれてから疑ったことの無い、深い愛情をくれた―――



―――と、信じていた者からの、明確な殺意。


 俺にはその鼓動を感じ取ることは出来ないけれど、きっとこれが殺意なんじゃないかと思う。

 「殺してやる」・・・・そんな非現実的な不可視の手が、俺の体をまるで鎖のように重く塞き止めていた。


ね、息子よ!」


 ゆっくりと、俺の腹部へとその凶器は狂気を以ってして明確な物理法則と共に迫ってきた。

 子供の、未成熟な視覚では捉えきれない速度でその手は俺に近付き――


「あ・・・・・・・・・・・・・・」



――熱い!


「~ッ~~ッ~~?!?!?!?!?」


 声には、成らなかった。

 出もしなかった。けれど確かに、その宿された〝痛み〟は男の瞳の潤いへと繋がったように思えた。

 今となっては、それすらもまるでテレビの中の記憶のように見通せる。


 あの激痛とともに。













~sid ???~




「ねぇ、大丈夫?」


 沈黙の舞い降りた住居の中に、幼き声が聞こえた。

 心の底にある恐怖を押し殺すような、か細く震えた声。


 それに応うる声は、何1つとして返らなかった。


――けれど。


「良かった。なら、一緒に行こう?」


 その声は、少しだけ安堵して、少しだけに、虚空へと右手を伸ばした。少しだけ斜め下に伸ばされた手は、握手を期待するかのように少しだけ大きく開かれていた。


 誰もいない部屋。

 その手を握る者は居ない―――



――パシッ!


 っと、擬音をつけるならそうなるだろう。

 赤黒く、どろどろの手のような何かが、その手を握った。助けを求めるように、さらなる飢えを満たそうと引き込むように、強く。強く。


 でも、その声の主は少しだけ嬉しそうになった。


「大丈夫。まだ歩けるよ、だって、その瞳には力がある。満足したい、助けてほしい、嫌だ、嫌だ、って。その気持ちは、きっと貴方の生きたい、って心だと思うんんだ」


 諭すように、慰めるように。


「人間っていうのはね、不思議な生き物で、強い心になればなるほど、体も強くなるの。そう、お父さんが言ってた。だからね、ほら、一緒に行こう?」


 励ますように、期待するように。


「外の世界を、もう一度見てみよう?こんな暗い場所じゃなくて、もっと明るい場所に行こう?楽しくなかったら、また戻ってくれば良いんだよ」


 その声は、次第に感情を灯して。

 いつしか少しばかりの恐怖も、消えたように明るく、強い意志を宿した瞳をしていた。


 暗闇からの手は、少しだけ震えて。

 その、見えない顔の辺りに、小さく反射する粒が垂れていた。




========================-

~後書き~


 プロット完成しても、そのストーリーにどうやって本編を乗せるのか、って分かり辛いよね。あれ、私だけですか?

 

 私の拙作を、此処までお読みくださり、ありがとうございますっ!

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