第8話


「あれ、君はこんな所で何してるの?」

「そうですね、君には僕がどうしたら見つけられなくなるのか検証していたんですよ」

「そうなんだ、それで?どうだった?」

「成功していたら、今頃僕はのんびりと休憩していたでしょう」


 体育の授業が5時間目で、そして今日は後1時間分の授業があるのだから、彼女には休ませて貰いたい。良くも悪くも彼女は目立つ。

 ただでさえ美少女であるというのに、あろうことか神によって与えられた才能は優しさと頭脳を兼ね備えていた。


 僕の通うような一般的な高校に来る必要など無いはずの彼女が、居るはずの無いような存在である彼女が居るだけで、彼女の株は上がる。

 言うならば、国王が市の会議に参加しているようなもの。国会に是非とも行ってもらいたい。



 とにかく、彼女はこの学校の中で憶測でもトップに位置する人気を持っている。そこに僕が居れば、当然のように目立ってしまうのだ。


――「おい、またアイツと一緒に居るぞ」

――「嘘だろ!どうしてあんなボッチと?!」


 酷い言い草だけれど、否定のしようがない。確かに僕はボッチだ。友達と呼べる存在も、イケメン野郎と彼女しか知らない。

 といっても、僕にとっての認識だから分からない。僕と関わった人間の中には、僕の事を友達と思っている人もいるかもしれない。


 まあ、それが定かでは無いからこそ僕はこの認識でいるのだ。


―――僕はボッチで成績もそこまで良くない。運動も出来ない。


 そう自分に言い聞かせたことも多く、言われたことも多い。それが僕であると認めるのに、そう長い時間は掛からなかった。


――「あいつ、絶対調子のってるだろ」

――「俺達の女神を取りやがって」

――「竜磨タツマ君みたいな人こそ女神にお似合いよ」

――「私達でも届かない彼も、女神様とならお似合いよね」


 ほら、面倒になる。

 人の世界はいつでも大量の事実無根の噂と一握りの真実で象られている。まったくもって、この世界の何処に魅力を覚えるのか。

 同じ地球に住む生物なのに、僕は彼等彼女等が本当に人間なのか疑ってしまう。まあ、僕が人間じゃない可能性は拭えないが。


(だから、君とは関わりたくないんですけど・・・・・・・・)


 チラリと横を見れば、外だというのに帽子も被らない彼女が呑気そうに――そして少しだけ機嫌が良さそうに佇んでいた。

 制服から木に寄り掛かっている。それだけでピカピカでシワの1つも無い制服は汚れてしまうだろうに。


 これだから、彼女の思考は分からない。


「それでは――」

「確かにね。それじゃあ、私達も戻りましょう」

「まだ何も言ってないですよ」

「違うの?『それでは、そろそろ時間になるので戻りますね』。そう言おうとしてなかった?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「ふふん~」


 エスパーという超常現象を信じる訳では無いが、本当に彼女が人間かを疑ってしまう。いつの時代から人は思考を読めるようになったのだろうか。


「・・・・・・・・・・・・・・行きますか」

「うん、そうだね」


 上機嫌な彼女は僕よりも1歩前を歩きながら、嬉しそうに、楽しそうに鼻歌を歌っていた。

 勿論、その後ろに歩く僕は目立ち、疲れる原因はさらに増える。


 無駄に良い僕の耳は、僕の事についてはさらに無駄な進化をしてキャッチしてくる。それによってもたらされた情報が、僕の性格を何度歪めたか。

 彼女の後ろを歩きならが、僕は静かに暗い〝陰〟を浮かべる。





【そうだ。お前は劣ったごみで、何よりもくずだ。生きている価値なんてない】



 耳には、木霊するように何かが聞こえていた。それを拒絶するように、意識は自然と他人を遠ざけていく。声の主から逃げるように。


「すまないけれど、僕は失礼するよ」


 

――彼女の驚く顔が、なぜか懐かしく思えた。




============

~後書き~


 次回更新からは、一週間に一度できれば、といった具合になります。読者の皆様には申し訳御座いませんが、私的に人生を決める重要な時期となってまいりました。

 大好きな小説の世界に身を投じる期間が短くなることは大変心苦しく、苦渋の決断となります。どうか皆様のご理解ご協力のほどを宜しくお願い致します。


 此処まで私の拙作をお読みくださり、ありがとうございますっ!

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